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「ねえ、たまごから産まれてきた女の子と出会ったことがある?」
友人は目の前に座る僕に向かってそう言った。
僕は頬杖をつきながら、いかにも退屈そうに友人の顔を見ていた。
「いや、ないよ」と僕は言う。
「そうだよなぁ。普通そんな女の子いないもんなー」
「でももしかしたら、実はたまごから産まれたけど内緒にしていた女の子がいたかもしれない。たまごから産まれるっていうのはコンプレックスに感じていることが多いだろうから」
「あ、確かにそれはありえる」
友人はなにやら納得した風に腕を組んだ。その友人は地頭はいいのだが、冗談が通じない残念な男なのだ。
僕は頬杖をついていた体勢を崩して椅子の背もたれに背中を預けてから言った。
「ところで、君はたまごから産まれた女の子に出会ったのかい?」
「うん。会ったよ」
「その子はどんな女の子なんだろう?」
「どんな子って言われても、難しいんだよなぁ。良い意味でも悪い意味でも特徴のない女の子なんだよ。彼女のことで明確に思い出せるのは、自分の事をたまごから産まれてきたって言っていたことくらいなんだ」
「じゃあ、その女の子に翼が生えていたり背中に甲羅があったりはしないんだ」
「そりゃもちろん。産毛一つない綺麗な女の子だったと思うよ」
「で、その産毛ひとつない綺麗な女の子に言われたわけだ? 『わたし、実はたまごから産まれてきたんです』って」
「……まあ、そうだね」
友人はばつが悪そうな表情をして頷いた。自分でも言っていることが馬鹿らしく思えてきたのかもしれない。
「僕を笑わせようとウソをついてるようにしか思えないな」と僕は笑みを作りながら言う。
「ひどいな。ウソじゃないよ。ほんとのことなんだって」
「どうしてもウソじゃないって言うんなら、その女の子を連れてきてみることだね。それで僕の目の前で同じ事を言ったら黙って信じることにするよ」
すると友人は痛いところを突かれたかのような顔をして困ったように頭を掻いた。
「いやぁーそれがさ……。どうやらその女の子に連絡先をブロックされちゃったみたいでもう連絡とれないんだよね……。」
そうしてこの会話は友人の身に起こった他愛もないホラ話ということで終わった。友人としても、ウソだと思われても仕方のないくらいの話だったようだ。
でも僕は友人の話がウソではないことを知っていた。
なぜなら僕はその女の子と会ったことがあるからだ。それは今から半年前のこと、つまり春の出来事である。
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