たまごから産まれた女の子

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 それから二年後に僕は町中で偶然彼女とすれ違った。彼女は変わらずの無表情をしながら横断歩道を渡っていた。あの時と季節は変わっていたが、彼女の身に纏う印象は一切変わっていなかった。  変わっていたことといえば、彼女の隣にはいかにもうるさそうな男がいるということだった。その男は身振り手振りをしながら纏わり付くように彼女に話しかけている。それがマッチングアプリで出会った男であろうことはすぐに分かった。  おそらく今も数多にある女性紹介ページの片隅に彼女がいるのだろう。年齢空欄、趣味空欄、休日の過ごし方空欄、という具合で。  僕は彼女と通り過ぎただけでなにも言わなかった。そしてすぐに声をかけなかったことを後悔した。でも、なんて声をかければよかったのだろうか。 「前にマッチングアプリで出会った男です。覚えていますか?」  馬鹿げている。宗教の勧誘でももっとマシなことを言うに違いない。 「二年前にあなたに告白してほしいと頼まれた男です。覚えていますか?」  これも馬鹿げている。そこらにいるナンパ師のほうが口がうまいだろう。  僕が彼女に言うべきセリフが思いついたのは、それからずっと後の事だった。  でもあまりにも長いセリフだったから、きっとうまく喋れなかったに違いない。僕の場合、相手に伝えたいセリフがようやく形になったとき、それは実用的じゃなく、加えてもうすでに手遅れな時がほとんどなのだ。  とにかくそのセリフは昔々で始まり、この後この後の二人はどうなったと思う?で終わる。
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