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「今日は、転校生を紹介します。唐沢愛さんです。じゃあ、軽く自己紹介して」
教壇に立つ先生に促されて、その転校生は自信ありげに真っ直ぐと立つ。スラっとした体型で足が長く、顔も小さい。
「東京から来ました、唐沢愛です。よろしくお願いします」
頭を下げると長い髪の毛がサラリと滑る。拍手とともに、彼女は一番後ろの席へと着いた。
当然のように休み時間は彼女の話で持ちきりだ。皆は興味津々で、唐沢愛の周りを取り囲む。
「東京から来たの? すごーい。髪の毛サラサラだねー」
「唐沢さんて、モデルとかやってたの? なんかおしゃれ」
「東京の女の子って、みんなこんなにカワイイの?」
質問責めに遭う彼女は、上品に手を口元に当てながら笑顔を作る。しかも、彼女は気軽に瑛士くんとも楽しそうに会話をしていた。その様がムカついた。
「なにあの子」
いつもなら話題の中心は私のはずだ。私を取り囲んで、私を取り合って。
「ね。転校生だからってさ」
ミッちゃんだけが私のところへ来てくれた。この子だけが自分の味方だ。
「全然カワイくないよあんな子。英美里ちゃんの方が断然カワイイって」
「うん」
ミッちゃんの言葉が耳に入って来ないほど、私はイライラしていた。なんなの。転校生だからって、調子乗って。
それから数日間は様子を見ていた。唐沢愛の行動を観察するように。相変わらず彼女の周りには人が集まり、人気は絶えない。
「愛ちゃん、愛ちゃん」といつの間にかあだ名まで出来て。
私は耐えていた。必ず機会が巡ってくるはず、そう思って。隙を見せたときに、ライオンのように襲いかかってやるんだから。私はそのことだけを考えて日々を過ごしていた。
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