カラザ

3/10
前へ
/10ページ
次へ
「今日は、転校生を紹介します。唐沢愛さんです。じゃあ、軽く自己紹介して」  教壇に立つ先生に促されて、その転校生は自信ありげに真っ直ぐと立つ。スラっとした体型で足が長く、顔も小さい。 「東京から来ました、唐沢愛です。よろしくお願いします」  頭を下げると長い髪の毛がサラリと滑る。拍手とともに、彼女は一番後ろの席へと着いた。  当然のように休み時間は彼女の話で持ちきりだ。皆は興味津々で、唐沢愛の周りを取り囲む。 「東京から来たの? すごーい。髪の毛サラサラだねー」 「唐沢さんて、モデルとかやってたの? なんかおしゃれ」 「東京の女の子って、みんなこんなにカワイイの?」  質問責めに遭う彼女は、上品に手を口元に当てながら笑顔を作る。しかも、彼女は気軽に瑛士くんとも楽しそうに会話をしていた。その(さま)がムカついた。 「なにあの子」  いつもなら話題の中心は私のはずだ。私を取り囲んで、私を取り合って。 「ね。転校生だからってさ」  ミッちゃんだけが私のところへ来てくれた。この子だけが自分の味方だ。 「全然カワイくないよあんな子。英美里ちゃんの方が断然カワイイって」 「うん」  ミッちゃんの言葉が耳に入って来ないほど、私はイライラしていた。なんなの。転校生だからって、調子乗って。  それから数日間は様子を見ていた。唐沢愛の行動を観察するように。相変わらず彼女の周りには人が集まり、人気は絶えない。 「愛ちゃん、愛ちゃん」といつの間にかあだ名まで出来て。  私は耐えていた。必ず機会が巡ってくるはず、そう思って。隙を見せたときに、ライオンのように襲いかかってやるんだから。私はそのことだけを考えて日々を過ごしていた。  
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加