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さっきまであんなにうるさく騒いでいたはずなのに、唐沢愛は急に大人しくなっている。ボサボサの髪の毛のまま、前髪で目元が隠されていた。
もう一度人形に目をやる。顔の部分には見覚えのある三文字。
「英美里?」
背筋が凍り、全身に鳥肌が立つのがわかる。
「……なんで私の名前が書かれてるの? ねえ、なにこれ? 気持ち悪いんだけど」
唐沢愛はなにも言わず、口角を少し上げて不気味にニヤッと笑った。
そばで人形の姿を見ていたミッちゃんも顔をしかめている。
「……ねえ、な、なんで英美里ちゃんの名前が書いてあるのよ? これ、なんなの?」
相変わらず唐沢愛はなにも答えず、ただただ笑い続けているだけ。
怖くなった私は、思わず持っていた巾着袋とその人形を放り投げた。寒気が止まらなくて一刻も早くこの場から逃げたくなった。
「……超キモい。皆、行こ」
私たちは公園から離れていく。でも、唐沢愛だけはその場に残り続けていて、動くことすらない。落ちた人形を拾うこともせず。
家に帰ってからもあの人形と唐沢愛の不気味な笑みが頭の中に居座っていて消えることがなかった。食欲もなく、お風呂に入ってすぐにベッドの中でうずくまった。
早く眠って、すべてを忘れてしまいたい。
もう唐沢愛と関わるのはやめよう。私の中でそんな思いが巡る。あの子はヤバい。普通じゃない。
私は小刻みに震えながら眠りに就くことしかできなかった。
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