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◇
目が覚めたとき、部屋の中はまだ暗闇が広がっていて、夜は明けていないのだと思った。あれから何時間が経過しているのだろう。時計を探すのだが、暗闇でなにも見えない。ただ、寝ぼけまなこの中、違和感に気づく。
布団がやけに柔らかい。まるで水に浮かんでいるような。
「ねぇそういえば、あなたのクラスの子、事故で亡くなったんですって?」
部屋の外から女性の声が聞こえる。
「ああ、そうだね」
「仲よかった子なの?」
「ううん、そんなに。お母さん、お醤油取って」
「はい、それでその女の子、英美里ちゃんだっけ? かわいそうに」
私? 私死んだの? え、どういうこと? そんなことを考えていたとき、女性と会話している子どもの声が唐沢愛に似ていることに気がつく。
「そうそう。もういいじゃん英美里ちゃんの話は」
二人の会話が終わった直後、私がいる部屋が唐突に動いていくのがわかった。遊園地のアトラクションみたいに体が宙に浮かぶ感覚。なに? なにが起こっているの?
そのあとコンコン、という衝撃音とともに光が差し込んでくる。まるで殻が割れたような。
次の瞬間、私の体は熱いものの上に乗せられたのだ。
「お母さん、ダメじゃん」
「え、ダメ? だって、これ気持ち悪いんだもん。いつも捨ててるのよ」
「それはね、カラザって言って凄く栄養のあるものなんだから。ちゃんと食べないと」
「愛はしっかりしてるわね」
「大切に食べないと。ねー、カラザちゃん」
そう言って唐沢愛は巨大な箸の先端で私の頭を撫でていく。
「なにそれ。会話してるみたいな」
「ふふふ」
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