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「ああ、高橋さん。あの論文採択されましたから」
院生室。私の指導教官、坂本幸宏先生がやってきて、開口一番にこやかに言った。工学部生物工学科の教授。50代後半には見えないが、最近お孫さんが生まれたらしい。先生には今回の論文で責任著者になってもらってるので、論文に関する連絡は筆頭著者の私でなく、基本的に先生の方に来るのだ。
「本当ですか!」
まさに、小躍りする、という表現にふさわしい気持ちだった。修論(修士論文)をベースにさらに研究を発展させて書いた論文。査読者とのやり取りを2回繰り返して、ようやく採択された……やれやれ……
とりあえず、これで博士号取得への道筋の三分の一はクリアされた。もう一本ファーストで原著論文書いて論文誌に採択されれば、それらをD論(博士論文)にまとめることができる。そして公聴会で発表し、先生方からの、様々な角度から飛んでくる質疑を全て突破して合格となれば、晴れて私も博士だ。
だけど、そうなっても研究者としてはまだカラを被ったヒヨコに過ぎない。一人前の研究者になるにはさらに時間がかかる。それでも私は後悔していない。そういう人生を、私は選んだのだから。
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