恋はスクランブルエッグ

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 大和に振られてからの一年を、あたしたちは兄妹として過ごした。あれから大和は、妹の告白なんて聞かなかったような顔で、あたしと今まで通りに接していた。  夏休みには、家族で祖父母の家に出掛けた。居間で夕食を取ったときに、集まっていた親戚たちは、久しぶりに会う大和に「いい男になって」とか「高校ではモテるでしょ」なんて言ったけれど、大和は「モテませんよ」と律儀(りちぎ)に答えて謙遜(けんそん)した。 「俺よりいい男なんて、たくさんいますから」  それは嘘だ。大和は、女子生徒たちから何度も告白されてきた。毎回断っているようだけれど、いつか誰かの恋心を受け入れる日が来るかもしれない。  酒盛(さかも)りをしている大人たちの輪の(すみ)っこで、枝豆を巻いた卵焼きを食べていると、親戚の一人に「海羽ちゃんは、勉強の調子はどう?」と訊かれた。返事をしようとしたあたしは、相手の笑みのぎこちなさに怖気(おじけ)づいて、口ごもった。今までは意識しようがなかったけれど、あたしの生い立ちは親戚にも知れ渡っている。そのとき、隣から「頑張ってますよ」と助け船が出されたから、どきんと心臓が(はず)んだ。 「海羽は、俺よりも利口(りこう)です。俺が高二の頃よりも、真面目に勉強してるんで、安心してください」  卵焼きを(はし)一切(ひとき)れつまんで、(ほが)らかに笑う大和を見ていると、なんだか泣きたくなってしまった。大和にとってあたしは妹で、一人の女の子として守ってもらえたわけじゃない。期待を裏切られるくらいなら、いっそ優しくしないでほしかった。  それでも嬉しいと思ってしまったあたしは、きっと利口じゃない。恋の諦め方なんて分からないし、分かりたくもなかった。
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