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 司は、頭だけリビングの方へ向ける。その瞬間、肩から首にかけて血がのぼる感触と同時に、(あご)付根(つけね)に痛みを感じた。叫びたいが、声が出ない。    リビングに横たわる、父、母、妹、弟。  全員頸動脈(けいどうみゃく)を切られたと見られる傷があり、ピクリともしない。男がやったのだろう、1か所に並べられている。  床は赤いペンキを塗ったよう。司が異臭を感じたのは、この血だまりの匂いだ。 「あれ、オロオロしないんだ? 泣き叫ばないの? そっか、まだ茫然自失(ぼうぜんじしつ)状態なんだ。そうだよね。みんな死んでるもんね」  失笑(しっしょう)しながら言う男は、司が見たところ30歳代か。髪は肩まであり童顔(どうがん)に見えた。  微動だにできない司。 「さあて、これで、おねえちゃんを殺しちゃったら、一家惨殺(いっかざんさつ)事件だよね。終わったら、卵を美味しく頂くよ」  そう言ってコンロの火を止めると、男は血のりをすっかり拭き取った包丁を手にして立ち上がった。
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