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③
司は、頭だけリビングの方へ向ける。その瞬間、肩から首にかけて血がのぼる感触と同時に、顎の付根に痛みを感じた。叫びたいが、声が出ない。
リビングに横たわる、父、母、妹、弟。
全員頸動脈を切られたと見られる傷があり、ピクリともしない。男がやったのだろう、1か所に並べられている。
床は赤いペンキを塗ったよう。司が異臭を感じたのは、この血だまりの匂いだ。
「あれ、オロオロしないんだ? 泣き叫ばないの? そっか、まだ茫然自失状態なんだ。そうだよね。みんな死んでるもんね」
失笑しながら言う男は、司が見たところ30歳代か。髪は肩まであり童顔に見えた。
微動だにできない司。
「さあて、これで、おねえちゃんを殺しちゃったら、一家惨殺事件だよね。終わったら、卵を美味しく頂くよ」
そう言ってコンロの火を止めると、男は血のりをすっかり拭き取った包丁を手にして立ち上がった。
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