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誰もが羨む
ばあちゃんほら、西瓜切ったよ! 種も取ってあっから、そのまま食べな。
あ? なぁんで今切んだ、ばあちゃんこれから昼寝だっぺや!
食ってから寝たらいいべや! ばあちゃん西瓜大好きなんだから。
あー、部屋持ってってやっから、食べてみな、ばあちゃん。甘ぇわこれ。
「うん……」
おばあちゃんはひとり、布団を敷いた部屋でしゃくりと西瓜を含む。ふくよかに甘いのに、涼やかで瑞々しく、それも一口大に切られているので食べやすい。
「うん……」
耳はすっかり遠くなった。それでも、閉じた襖越し、心地よい人の気配が鼓膜に染み込んでくるようだ。
久しぶりの賑やかさ、大きな笑い声、赤ん坊の喃語。盆の休みで、遠方からも親族が勢ぞろいし、おばあちゃんを明るく囲んでくれた。
――昨晩、皆で見た迎え火の光。それが胸の奥でジジジと強く揺れる。
「……なぁんだべ。おめぇ、まぁだのんびりしてあいつらの世話になってんのけ!?」
懐かしい声が傍から聴こえた。相変わらず忙しない人だ。おばあちゃんは振り返り、にっこりと笑った。
「仕方ねぇなぁおめぇはよぉ。それ食ったら行くぞ、連れてってやっから」
「うん!」
――綺麗に食べ終えたガラスの器を、小さなフォークがカランと打つ。
「……ばあちゃん、もう寝たかねぇ。あんた、お皿下げてきてくれっけ?」
小学生の曾孫が元気よく頷き、ほんの少し襖を開けた。そして片目で覗き込むなり、笑い転げて報告した。
「ひいばあちゃんさぁ、布団入んないで寝てるよ! 寝ながら笑ってんの。めっちゃ入れ歯出てて変な顔〜」
は? と束の間ぼんやりする大人達。医者の長男だけが血相を変え、襖の向こうにどたどた駆け込んでいく。
首を触って脈を確認した。俯く長男を、眠るおばあちゃんを、親族皆が丸く取り囲む。
やがて長男は指を離した。薄れゆく火の匂いと西瓜の香り。それらを追いかけるように室内を見回した後、優しい目をして声をかけた。
「……お盆だからなぁ、親父が帰って来てたんだろ。孫だの曾孫だのに会えて、いい気持ちで大好物食ってたら、一番会いたかった人が迎えに来てくれて。これ以上ねぇ大往生だなぁ。よかったなぁ、母ちゃん」
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