卵焼きとシンギュラリティ

2/18
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
 火星中央区時間十三時過ぎ、カレッジの食堂でグレープ・フレーバーの完全栄養ゼリーを咀嚼していたら、ルームメイトのナカノが深刻な表情で向かいの席に座った。カレッジの既定の黄色いジャンプスーツに身を包んだ長身の男が、この世の終わりのような顔をして身を縮こまらせているのはずいぶんと滑稽だった。彼は食器も何も持っていない。きっと初めから私を探しに来たのだろう。 「シマダ、驚かないで聞いてほしい」  挨拶もなしに、彼はぐいと顔を近づけて来た。私はその態度と言い回しにいくらか辟易した。ナカノはちょっとしたことでも大げさに捉えがちな男だった。きっと今回も例外ではないのだろうと、なるだけ冷めた視線を投げかけて残りのゼリーを口に流し込んだ。 「今日の夕方にやってくる地球からの交易船に、ニワトリの卵が積まれているらしい」 「ニワトリ?」  聞き覚えのない単語に、私は思わず聞き返した。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!