第二章 小説「異世界小説家と女暗殺者の物語(告白編)」

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第十一話 舞姫の友人(1)  朝だ!  朝が来た!  隣には、ローズが、まだ気持ちよさそうに、スヤスヤと眠っている。  いつもなら、まだ暗い日が昇る前に起き、朝のトレーニングを始めている頃だ。 (本当に、ぐっすり眠ってしまったな)  ここに来るまでは、自分の命は、今日までか? 明日で終わりか?  そんな状態だった。  『関わりあるもの全て消せ』と言う命令は、私自身も含まれている。  もう途中から、枇々木(ヒビキ)を殺すことなんて出来なくなっていたが。  仮に、私がそれをしなくても、誰かが代わりに命令を実行することもある。  そして、皇国では、枇々木(ヒビキ)を守る為に、私が殺されることも覚悟してきた。  会って一言だけでも話が出来れば、それで良いと覚悟していた。  でも、それは杞憂(きゆう)だった。    ローズを起こさないようにベッドを降り、身だしなみを軽く整えて服を着替える。  昨日着た異世界の服装は、動き辛いから着ない。  枇々木(ヒビキ)が困っている風に見えた。  それに、着慣れていないし。  ローズが何着か用意してくれた服は、私に合わせて、動きやすい服装を選んでいてくれた。  ローズの着る服の様に、ヒラヒラとしてないので動きやすい。  皇国の人達が、良く来ている衣装だ。    リビングに行っても、まだ誰もいない。  使用人達が私を見かけると、「おはようございます」と声を掛けてくれた。  朝食の用意をしてくれているようだ。  私は、そのまま書斎に向かう。  部屋の明かりがついたままだった。  まさか?  昨日は、寝ないで書いていたのか?  気になって覗きに行くと……、二人が倒れていた! 「あっ!」  私はあわてて駆け寄った。 (な、何があった?) (血は出ていない、切られてもいない。首でも絞められたか?)  急いで、手首や首筋、顔の表情を確認する。 (ここも、大丈夫だ。二人とも、殴られた後も、絞められた跡もない。)  私は枇々木(ヒビキ)を抱きしめなが、深く溜息をついた。 「よ、よかったー」   「う、う~ん。ふわぁ~ぁ。あ、あれ? リリィさん、こんな夜更けに? 眠れなかったの? あれぇ、服着替えちゃったの?」  枇々木(ヒビキ)が、片方だけ目を開けている。 「むっ! 何を言っている。もう、朝だぞ!」  何を言っているんだこいつと思いながら見返した。 「やっぱり、ローズと一緒だと眠れなかった~? だから、枇々木(ヒビキ)と一緒に眠ったらって言ったらろぉ?」  と、フェイスも寝ぼけながら、何か言っている。 「むむっ!」 (寝ぼけて、崩れ落ちただけだったのか?)  ちょっと腹が立った。 「知るか! せっかく心配して来てやったのに。さっさと起きろ!」  叱りつけ、ドカドカと足音を立てて書斎を出て、ローズを起こしに行く。 (心配して損したぞ。フェイスもフェイスだ。ローズが時々怒るわけだ)    ローズも寝ぼけていて、まともな会話が成立するのにはちょっと時間がかかった。  そして、ローズの着替えを待ち、二人でリビングに向かった。  途中でキッチンによって、朝食の用意を手伝った。  その頃には、二人も起きていて、私のかを見て気まずそうな顔をしていた。  事の経緯をローズに話すと、二人にはちゃんと注意してくれた。  そして、私にはこう言った。 「リリィちゃんにとっては、こんな生活の方が非日常だったんだよね。気が付かなくて、ごめん」 「いや、みんなが無事なら、それでいい。私も慌て過ぎたのだ」 「昨日の今日だからな。色々あり過ぎだよね。枇々木(ヒビキ)と私は、夜更けまで執筆で話をすることがたまにある。伝えておかなくて済まないね」 「いや、いいんだ」 「そうだなぁ。今日は街にでも遊びに行くかい? ローズ、お願い出来る?」  フェイスが、ローズに尋ねた。 「ごめーん。昨日はここに泊まったから、いったん戻らないと叱られてしまうの」 「弱ったな。私と枇々木(ヒビキ)は、これから印刷所に打ち合わせへ行くんだ。他の人は連れていけなくて」  私は、街の様子も知りたかったので、一人で行くと伝えた。 「え?」  枇々木(ヒビキ)は、心配そうな顔をした。 「何を心配するのだ?」  私は、自分が、ここにいても安全になったのかを確認したくもあった。  ここの警備が、誰を対象にしているかもわかる。 「うーん。じゃ、街まで馬車に乗れる使用人の誰かにお願いしよう」  フェイスが、枇々木(ヒビキ)を安心させようと提案してくれた。 「で、でも」  枇々木(ヒビキ)は、それでも心配そうだった。 「枇々木(ヒビキ)、私を誰だと思っているんだ? ”冥府の舞姫”と言われた刺客だったんだぞ。自分の身ぐらい自分で守れる。街を案内してくれるだけで大丈夫だ」  そう言って、心配する枇々木(ヒビキ)を納得させた。  食事を終えると、3人はそれぞれ支度を始め、「じゃ、リリィさん。行ってくるね。楽しんできてね」と出かけていった。  警備している気配もしなくなった。  あの3人の警備の為だったのか?  色々考え過ぎて、困ってしまう。   「リリィ様。いつ、街には行かれますか?」  私の付き添いに付き合ってくれるメイドが、訪ねてきた。 「いつでもいい」  私は、渡されたお金を確認して答えた。 「では、参りましょうか?」  最初は、この周りの地形を把握したくて、自分の足で行こうと考えていた。  しかし。  私は、枇々木(ヒビキ)を安心させる為だけに、わざわざ馬車に乗り街へ向かった。
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