第二章 小説「異世界小説家と女暗殺者の物語(告白編)」

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第十七話 増えた家族  屋敷に付くと、枇々木(ヒビキ)達が、勢ぞろいで待ち構えていた。   「リリィー!」    馬車を降りると枇々木(ヒビキ)が飛びついて、私を抱きしめてきた。 「何で、こんな無茶なことを!」 「枇々木(ヒビキ)、すまない。役に立てることはないかと思い、帝国の様子を見に行こうとした」 「そんな。下手をしたら、帰って来られなかったかもしれないのに」 「あの、リリィさんを責めないで上げて」  私達のやり取りを見ていたシャトレーヌが、間に入ってくれた。 「あれ? あなたは、あのお店の?」 「枇々木(ヒビキ)さんとおっしゃるのかしら? 私のこと、覚えていてくださって嬉しいわ」 「あなたまで、こちらに連れてくることになるとは、何と言ってよいのか?」 「気にしないで。私は、リリィさんが訪ねて来てくれて、嬉しかったわ。元気にしているのを見られて、それはとても」 「あの、お名前は?」 「シャトレーヌと申します」 「シャトレーヌさんですか? 私は、『枇々木(ヒビキ) 言辞(ゲンジ)』と申します」 「あなたが、有名小説家の枇々木(ヒビキ)さんですか?」 「いえ、有名小説家なんて」 「後ろのお二人は?」 「ああ、彼は、フェイス。お金の支援や本の編集や出版をしてくれています。彼女は、ローズさん。屋敷内での世話を焼いてくれています。仕事が仕事なので、使用人さん達とは、あまり接触しないようにしていて」 「はじめまして、シャトレーヌさん。フェイスです。本の編集や出版を担当しています。まあ、実作業は他の人に依頼してるだけなんですが」 「シャトレーヌさん、ローズと申します。枇々木(ヒビキ)やリリィさんの、身の回りのお世話をしています。実は、遊びに来ているだけなんですが」 「はじめまして、フェイスさん、ローズさん」 「じゃ皆様、屋敷の中に入りましょう。話は、そこで」  ローズが、シャトレーヌさんの手を取り、屋敷へ案内してくれた。 「さ、枇々木(ヒビキ)も、リリィさんも」  フェイスが、私達にも声を掛けた。  ガルド達は、一礼し、私達の前からあっという間に消えた。 「あれっ? もう、いなくなってしまった。あの方々に、お礼を言おうと思ったのに」  シャトレーヌが、申し訳なさそうな顔をした。 「大丈夫だ。あいつらは、この屋敷の警備をしている。直接会うことは少ないだろうから、顔はあわせないだろうけど」  私は、シャトレーヌを安心させた。 「まあ、リリィさんに専属の護衛さんが付いたの?」 「ち、違うぞ。屋敷のだぞ。私達は、そのついでだ」  私が、警護されると思われては恥ずかしいので、慌てて否定した。 「そう」  シャトレーヌは、優しい笑顔をして頷いた。  屋敷に付くと、いつものリビングに入り、みんなで座った。  私は、枇々木(ヒビキ)が、ずっと手を握って離さないので、しかたなく隣に座った。  私の隣にシャトレーヌを、ローズが座るよう気遣ってくれる。  サフェスが、その様子を見て、からかってきた。 「リリィさんが、実家からお母さんを連れてきたみたいだなぁ」 「まーた、そういうことを言う!」と、怒るローズ。  私は、恐縮するしかなかった。  もう、暗殺者も、冥府の舞姫の威厳もない。 「賑やかね? リリィちゃん」  シャトレーヌが、ニコニコとした笑顔で言う。 「いつも、こんな感じだ。こんな感じで、あの小説を書いて、この3人は、皇国と帝国を相手にしている」 「そう。凄いわね。……。でも、リリィさんは、その物語の中のヒロインさんなんですよね?」 「ただの、モデルだ。ヒロインと言うほどの者ではない。あんなの、枇々木(ヒビキ)の中の妄想だ」  それを聞ていた枇々木(ヒビキ)は、悲しそうな顔をした。 「あ、いや、言い方が……。すまない。言い過ぎた」  私は、慌てて訂正した。 「枇々木(ヒビキ)さん。照れ隠しですよ。安心してください」  と、シャトレーヌ。 「て、照れ隠しとは何だ!」  私は、慌てて否定したが、枇々木(ヒビキ)はホッとした顔をした。  ローズが、使用人達とお茶とお菓子を持ってやって来た。  その中には、初めて街を見物に行った時、一緒に行ってくれたメイドも居た。  彼女は、キッチンには、あまりいないのだが、今日は来ていたのか? 「さあ、リリィちゃんが無事帰って来られたし、ホッとした所でお茶しましょう」  ローズが、みんなにお茶を進めてくれた。 「しかし、シャトレーヌさん。あれだけ色々あったのに、落ち着いているのは流石ですね」  フェイスが感心している。 「まあ、皆さんよりちょっと長く生きてるだけですけど、色々ありましたし」 「フェイス! シャトレーヌはこのまま居て良いんだよな? 追い出したり、どこかに移したりしないよな」  私は、巻き込んでしまった責任を取る為に焦っていた。 「リリィさん。心配いらないよ。ただ、リリィさんの知り合いが100人、200人いたら困るけど」 「本当か?」 「大丈夫だよ。リリィさんのお母さんを叩き出すわけにはいかないじゃん?」 「いや、母ではないぞ、シャトレーヌは……」 「もー、フェイスが、変にからかうからー」  ローズが腕を組んで、むくれて言う。 「で、枇々木(ヒビキ)。いつになったらリリィちゃんの手を離すの?」  ローズは、机の上から覗くように見る。 「え? あ! ご、御免!」  枇々木(ヒビキ)は、顔を真っ赤にして、手を離して、(かしこ)まった。  私も今まで手を握りながら話をしていたかと思うと、顔から火が出るように熱くなってしまった。  気が付くと、シャトレーヌの目に涙が浮かんでいた。 「シャ、シャトレーヌ。どうした?」  何か不安にさせたことがあるのか心配した。 「いいえ。ホッとしたの。リリィさんが、初めて店に来た時は、本当に悲しそうな顔してたから。どうして良いのか、分からなくて困っていたみたいだから」  涙を軽くふいて、言葉を続けた。 「御免なさいね。思わず声を掛けて、ビックリさせてしまって。悪いことしたかなーって思ったけど。その後、お店でも、街でも見かけることもなかったから。どうしたのかなぁーって、気になっていて。……。良かったー。本当に」  目に涙を浮かべながら、シャトレーヌは言う。 「心配することはないぞ。シャトレーヌが、声を掛けてくれたから、私はここに来ようと決められたんだ。むしろ、ありがとうと言いたい」  私は、あの時の自分を思い出した。  すると、シャトレーヌは、私をギュッと抱きしめた。 「もう、本当にぃ、私の娘みたい。フェイスさんも、素敵なこと言ってくれましたね?」 「いえ、いえ」  フェイスも、笑みを浮かべて自慢げに答える。 「さしずめ、ローズは、嫁ぎ先の小姑かな?」  と、フェイス。 「ちょっ!」  ローズが、席を立ちあがって、フェイスを睨みつけた。 「まあ、とてもお上品で素敵な小姑さんですこと。うちの娘をよろしくね?」  シャトレーヌが、目をキラキラとさせて言う。 「ええぇ? シャトレーヌさんまでぇ」  褒められたと思ってうれしそうにしている。  流石、女性に大人気であるお店の女主人。  女性のあしらい方は、特に心得ているようだ。  とりとめのない話している内に、食事の準備が整い始めた。  ローズは、用意してあった部屋に案内する為、シャトレーヌさんを伴い席を立った。  しばらくかかるかと思ったら、あっという間に着替えて席に戻って来た。 「早いな、シャトレーヌ」 「ん。店の仕事で、直ぐ着替えるのは慣れてるしね。服は、メイドさん達からお借りした物だけど」 「さ、食べようか、リリィさん」 「うん」  その後の食事は、一段と賑やかな物になった。  私は、フェイスとローズは、本当は仲が悪いのかと、思っていた。  だが、シャトレーヌは、二人のやり取りを見て、お腹を抱えて笑っている。  私も枇々木(ヒビキ)も、根が真面目だ。  私達は、二人を(なだ)めようとしてきた。  だが、シャトレーヌは、お腹を抱え、大きな声で笑っている。 (なんだ、本当に喧嘩しているわけじゃなかったんだな)  ただ、シャトレーヌが大笑いする度に、枇々木(ヒビキ)は、背中をバンバンと叩かれて痛そうだった。
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