犠牲

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「おかしい。これで上手くいくはずだったのに」  榊原教授は頭を抱えた。  なぜ、やってもやっても上手くいかない。見逃している条件があるのか?  温度? それとも、加熱時間? 湿度の影響はないと考えていたが、それは甘かっただろうか。  家には弾性を計測する機械がないが、明らかに違う。  大学の研究室なら、便利なものがたくさんあるが、私的な研究のために家に持ち帰ることはできない。  ノートPCに記録した実験結果を見直す。  仕方ない。再度、試作だ。  まずは正確な計量。丁寧な攪拌。そして、フィルターにかける。添加物を滴下、さらに丁寧な攪拌。加熱温度は一定に保つ。  甘ったるい匂いが鼻について、もう取れない。  前回より十秒早く、加熱を終了する。  出来上がった試作品四個をそれぞれ、確認する。  これはもしかして。 「できた! できたぞ! 由子! とうとう、やったぞ!」  榊原教授はノーベル賞をとったかのように妻の名を叫び、喜んだ。
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