犠牲

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「あれ、今日はお父さんは?」  榊原由子は見舞いに来た娘に尋ねた。 「研究に夢中になって、徹夜続きでダウン。目が覚めたら来るかも」 「そう。困った人ね」 「お母さんが入院して焦ったみたい。お母さんの望みを叶えるんだって、暴走しちゃった」 「ただの骨折なのに。それにしても、歳をとると、ダメね。転んだだけで折れるなんて」  ギプスで固められた左足を見下ろし、榊原由子は苦笑した。 「仕方ないよ。それより、お父さんの研究成果、持ってきたから。さ、どうぞ」  娘はガラス容器に固めたプリンを皿に出すと、横にスプーンを添えた。 「お母さんの欲しかった手作りプリン。お父さんの納得する完璧なプリンになるまでに八パック分の卵が犠牲になってます」  市販の製品のような滑らかな表面にスプーンを入れると、榊原由子は幸せそうにプリンを口に頬張った。
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