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第二十六章第二節『一年前の自分と 追いこむユウハ』
《第一節
右手人差し指に巻かれた絆創膏。
げっそりとしている目の周り。
ユウハのそんな姿を見て
オレは去年の自分を思い出した。
必死で追い込み
疲れ果てたあの夏の日々を。
ミノリ「もしかして
追い込むだけとか
楽しくないけどとか…
オマエ今そんな感じか?」
気を遣うようにして話すオレに
ユウハは自分の心を
見透かされたかのように想い
目を合わせて頷いた。
ユウハ「えっ…うん…。」
オレは静かに口を開いた。
ミノリ「勝たないといけないからとか
負けたらだらしないからなら…
もったいないよ。」
ユウハ「そんなの言われてもさ…どうしても勝ちてぇんだよ。それに楽しさなんてどっかにおいて来ちゃったよ…準優勝一回じゃ自慢にも何にもしたくないからもっと上を目指したいんだ。」
ユウハの声が少し震えている。
オレも同じ道を通ったから
その言葉が刺さる。
ミノリ「やっぱり…
去年のオレとそっくりだ。」
「目標をきめてしまうと
達成できなさそうになればなるほど
体がこわばってきてしまうよな。」
「その結果、
部活を嫌になるまで
必死に頑張るしか
なくなったんだよ…」
ユウハ「…ミノリもそうだったのか。
知らなかった。」
去年の夏もユウハは
今のように頑張っていたらしい。
しかし、その頃から比べても
あまり成績が伸びていないという。
ミノリ「ボクシング部って
オマエひとりじゃなくて
もっといるって聞いたよ。」
ユウハ「ああ、同級生に
オレ除くと8人、一年生は9人、
先輩が11人いるよ」
ミノリ「じゃあ独りで抱え込むなんて
もったいないよ。」
「一緒に練習しようとか
誘ってみたらどうなんだ?」
そう言ったら笑顔になってくれる
そう思って言った言葉だった。
しかし
ユウハはかすかにうなずいたが
表情が変わらなかった。
とある事情を抱えていたのだ。
ユウハ「オレって実はこの部の中で
一番下のレベルなんだよ…
話しかけれる相手なんて…」
そういってユウハはうつむいた。
オレはモモネやナオトの支えを思い出して
ユウハを励まし続けた。
ミノリ「一番下…この部すごいな。
だからこそ応援してくれる人
アドバイスをくれる人が
きっといっぱいいると思うよ!!」
ユウハ「話しかける相手じゃなくて
応援してくれる人…
アドバイスをくれる人…」
ミノリ「一番上の人とか
うまくいってる人とかには
どうすれば勝てるか大体わかる。」
ユウハ「確かに…」
ミノリ「一番下の人は勝数が少なくて
どうすれば勝てるかわかんない。」
ユウハ「確かにどうすれば
効率的に練習できるか
わかんないや…」
オレの話に納得してくれた
そう感じることができたから
ある提案をしてみた。
ミノリ「下だから誰も味方じゃない
どうしようもないじゃなくて、
下だからどうすれば勝てるか
いろんな人に教えてもらえる。」
「教えてもらえばきっと
勝てるようになるから
諦めんなよ!」
ユウハ「わかった。
すっきりしたよ…
ありがとう。」
ユウハはそのとき笑顔で前を向いていた。
ミノリ「実はこれ…
勉強も同じなんだ。
だからナオトに
言っといてくれねえか?」
ユウハ「どういうふうに?」
ミノリ「どうすれば合格できるか
わかんないなら
聞いてみるってのも
ありだって…」
ひとりで生きていない、生きてけない。
だからこそ友がいる。仲間がいる。
そういうことを知れたユウハであった。
第二十六章 完結____
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