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魔力供給と赤薔薇の刻印
カインにエスコートされ、宝物庫に行った。私の顔を見て、先日も警備についていただろう兵士が驚く。
「ご苦労様!」
「いえ、ありがとうございます!」
部屋に入って行こうとすると、警備兵に慌てて呼び止められた。
「何かしら?」
「あの、体の方は、何ともないんでしょうか?」
「えぇ、おかげさまで、すっかり良くなりました! 心配かけましたね?」
「そうですか……よかったです!」
ニッコリ笑う兵士も、あの日倒れた私のことを心配してくれていたようだ。私は、微笑み彼に近づく。心配してくれたお礼をした。
「手を出してくださる!」
「手をですか?」
「えぇ」と答えると、何をされるか不安という顔をしながら、言われた通り手を出してくれる。
「あなたが命の危機にあったとき、無条件であなた自身を守ってくれますように……」
おまじないをすれば、ぽわっとその兵士が輝いた。こんなこと、今までなかったので、私は内心驚いたが、顔には出さず微笑んでおく。「行きましょう」とカインに声をかけられ、宝物庫へと慌てて入る。
「ビアンカ様、さっきのは?」
「驚いたわね! あんなことになるなんて……私がビックリしたわ!」
「これからは、むやみやたらと、人の手を取るべきではありませんね?」
「はい、反省します……」
しゅんとしながら、用意されている席へと座った。宝物庫の前室に私が聖女の宝飾品へ魔力を込められるようにと机や椅子を用意してくれていたのだ。
「今日は、ひとつだけにしましょう。持ってくるので……大人しくしていてください!」
「大人しくだなんて……」
「さっきやらかしたばかりでしょ?」
カインに微笑まれたら、返す言葉もなかった。しばらく待つと、聖女の首飾りを持って宝物庫からカインが出てくる。机の上には、首飾りに傷がつかないようにとニーアが敷物を敷いてくれた。
「今日は、これだけです。魔力を全力で流さないでくださいね?」
「えぇ、わかっているわ! 加減はするつもり」
そういって、手を翳し目を瞑った。ぽぅっと体が熱くなる。今まで体験したことのないような魔力の流れに戸惑った。
「ビアンカ様、大丈夫ですか……?」
ニーアが声をかけてくれているのはわかるが、水の中で聞いているようなくぐもった声だ。私は返事の代わりに頷いた。それから、魔力を少しづつ首飾りに流していく。前回のように全部持っていかれるというような感じではなく、ちゃんと調整できる当たり、やはり、この宝飾品たちも魔力の枯渇をしていたようだ。
三分の一くらいの魔力を供給できただろうか? そろそろ切り上げないとと思ったとき、映像が見える。例の折れた剣をかの王に渡したときの映像であった。
わぁ! 聖女って感じだし、王様って感じ! 纏う空気が全然違うわね。
聖女の顔をじっと見つめた。きっと美人なんだろうと見たくなったからだ。ベールをかぶっていてよく見えなかったが、目を凝らしているうちに聖女の顔が見えた。
豪奢な金髪にエメラルドの瞳……!
ぱちっと目をあける。
「……私?」
「どうかされましたか?」
「今、映像を見ていて……あの、」
「映像って残像を見ていたということですか?」
「そう、そうなの! それでね? 聖女が私だった!」
「えっ? ビアンカ様が?」
「カイン、聖女様の姿絵が残っているって言っていたわよね?」
「え、あぁ、あります! この前見つけたけど、それどころじゃ……どこかで、見た顔だって、ずっと思っていたんです」
「はぁ? えっ? 何?」
カインの顔が、思い出したという顔になった。私は、「まさか?」と問うと頷くカイン。
「見に行きましょう!」
「ビアンカ様、中には……!」
「大丈夫よ! 触らなければいいだけだから。カイン、案内して!」
カインに先導され、ニーアが首飾りを持ち、私はついて行く。
そこで目にしたもの……それは!
「セプトと私……」
「ビアンカ様と殿下!」
「あぁ、そうなんだ。今、思い出した。小さい頃、ここでかくれんぼをしていたことは話しましたよね?」
「えぇ、聞いたわ」
「これを見つけたのは、セプト様。これは、まぎれもなく何百年も前に描かれた絵画です」
「……セプトは、私が聖女だって知っていた?」
「たぶん、そうだと思いますよ。すっかり忘れていたんですけど……セプト様は、時折この場所へ来ていましたから」
だとしたら、この王の血縁者として、セプトが似ていても不思議ではない。
私の家は、たぶん、血を残せていないのであれば……これは、私なのではないか。
「カイン、この年代がいつかわかる?」
「たしか……700年くらい前だった気がするけど……確かじゃないですよ? ミントなら知っているかもしれないですけど」
「700年……ニーア、私がセプトに借りていた本は確かその時代のものだったわよね?」
「えぇ、そうでした。私も読ませていただきましたので、確かかと……何かあるのですか?」
「私、あの本を手に取ったとき、読みこまなくても全て知っていたのよ。その後のことも……」
「じゃあ、ビアンカ様は、時を彷徨っておられるということですか?」
「わからない! だって、私は、首にギロチンの刃が当たって、自身の首が飛んだところまでしか覚えていないもの!」
私は混乱した。聖女の宝飾品に触ったときに魔力が枯渇するほど、吸い上げられたこと。聖女の宝飾品と同じエメラルドの宝飾品。知っている歴史。そして、聖女と王の姿絵。
「ねぇ、あの聖女の胸元にあるのって……刻印よね?」
「あれですか? 何かの飾りだと思っていましたが……言われてみるとそうかもしれませんね?」
「あの刻印って……赤薔薇?」
「……セプト様の紋章も赤薔薇です」
「えっ? セプトも赤薔薇なの?」
「そうです。この国の王子たちにもそれぞれ刻印があるのですが……」
「それって、どうやってわかるの?」
「生まれたとき、王子にも刻印が現れるのです。一瞬で消えるらしいのですが、そのときに絵師が書き写すようです。それぞれの王子付きの護衛になると、こういったものが与えられます。あとは、妃の儀式でわかるのでは?」
見せてくれたのは、赤薔薇の刻印がされている通行証であった。私付となったカインではあるが、元をたどれば、セプトの護衛である。赤薔薇の通行証を持っていても不思議ではない。
「そうね。刻印はそうなんだけど……なんだか、わからないことだらけね……一度、セプトにも話を聞いてみないとわからないわ……それはそうと、聖女の姿絵は、これ以外にも他にあるのかしら?」
「ないですね」
「教会は、聖女を信仰しているのにないの?」
「ないです。聖女を信仰しているというより、聖女の名を借りたあくどい商売みたいなものですから……」
「それは、聞かなかったことにするわ!」
「あぁ、ついでにですけど……教会は、ビアンカ様のこと、狙っていると思いますよ! セプト様とはわりと折り合いが悪いですから、あなたを取り込んでセプト様をどうにかしたいとか考えているかもしれません。気を付けてください。
それと、聖女だけが使える魔法の話がありましたが……たぶん、それが使えなかったら、偽物と誹られることになると思います。覚悟を決めてくださいね!」
「私がなりたくて、聖女になったわけではないのだけど……」
はぁ……と大きくため息をついた。聖女の姿絵の隣に、エメラルドの嵌った柱があることに気付く。
柱にエメラルドを埋めるなんて、何をかんがえているのやら……。
二つ目のため息をついたところで、今日は部屋に戻ることにした。
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