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あった!
「カイン、それとって!」
「どれですか?」
「えっと……その茶色い表紙って……全部茶色い……」
「抱きかかえるんで、取りたいものをご自身で取ってください!」
私を抱きかかえようと近寄ってくるので、後ろに少し下がる。カインはその場で止まって私を見下ろした。
「えっ、それは、ちょっと恥ずかしいかも……」
「背表紙に書かれている文字が読めますか?」
「うーん……消えてるのよね?」
「消えてる? 文字の消えている本はありませんが……」
本棚を見て首を傾げるカイン。どうしたものか……と悩んで、やはり、カインに抱きかかえてもらうことにした。
「カイン、お願い!」
「仰せのままに!」
しゅっと抱きかかえてくれ、私は本棚の最上段へ手を伸ばす。
「もう少し右にズレてくれる? 2歩3歩くらい」
「わかりました!」
「ふふっ、くすぐったい……」
返事をしてくれたとき、お腹に息がかかりくすぐったくて、思わず笑ってしまった。それを聞きつけたのであろうセプトとニーアが駆け寄ってきた。
「何をしているんだ?」
「本を取ろうと思って、カインにお願いしたの」
「……カイン、変わろう」
「セプト様では、無理ですよ?」
「むぐ……」
「カイン、もう一歩ズレて! あと、話さないで! くすぐったくて仕方がない!」
「……」
カインに支えてもらい、手を伸ばしたところで、目的のものに手が届いた。
「もうちょっと……うぅ……いよっと……うー……取れた!」
私は目的の本を手に「いいよ!」と合図をして、カインに下ろしてもらう。
「これがどうしても気になったの。背表紙の文字がもう消えてないのだけど……」
「本当だ……」
「それ、本棚にあるとき、見えませんでしたよ?」
「さっきも言っていたね? 中を見てみようか!」
そっと開くと……うん、いいお胸ね……パタンと閉じた。
「何が書いてあったんだ?」
「うん、きっと喜ぶと思うからあげるわ! 返しておいて!」
「何怒っているんだろうな? カイン」
何気なくセプトが開き、カインと二人で本を覗き込む。
「あぁ、なんていうか……ビアンカ様、ご愁傷様です」
「次、あれを見てみましょう!」
とと……と移動して違う本を手に取る。まだ、みているのかと後ろを振り返り、ぷいっと違う棚の本を手に取る。
「ビアンカ様、そんなにあちこちと触られていますが、何か目印でもあるのですか?」
「本棚を見ているとね? ぼんやり光っているように見えるの。きっと、魔力があるのかなって思って。魔法書は、呪文自体に魔力が籠るらしいから……」
「そうなのですね? 私には見えませんから……」
「いいわよ! 側にいてちょうだい!」
私は、本を開く。今度は魔法の書であるが、聖女の魔法ではない。
「いったいどんなものなのだろう? 私、全然、見当がついていないのよね?」
うーんと唸っていると、チカっとエメラルドのブレスレットが光った。腕を伸ばして光る方を探す。そちらを目指して歩いていると、大きな扉の前に引き寄せられた。
「ここ……入れるのかしら?」
ドアノブを回し、そっと扉を押すとぎぃーッと蝶番のさびたような音がする。一人分の体が入るくらい広げて扉の中に滑り込んだ。そこは、隠し部屋のようで、見た目が鳥籠のようだ。鳥籠と違うのは、壁一面に本があり、天窓から光が降り注いでいる。その真ん中には、机があり1冊の本が開かれていた。
「ニーア、あれかしらね?」
「……」
「ニーア?」
振り返ると、そこには誰もおらず、私だけがこの部屋にいたのである。
「ここで、悩んでいても仕方ないよね……」
気を付けながら、1歩1歩その机へと近づいていく。席も用意されており、そこに腰をかけ、開かれている本を読んだ。
「何々……あるとき、大魔法を1つ完成させた。王宮の一室に部屋を賜り、柱に埋め込んだ宝玉に少しずつ魔力を貯めていく。それらを満たせれば、この国は、魔物から民を守れるはずだ。ただ、この大魔法……は、リスクがある。どんなものかは、確認できないが、かの君が、これ以上傷つかなくていいように……私が、守ってみせる。例え、どんな罰を受けようとも……ここで文章が切れてる……。かの君って誰のことだろう? あの剣を授かったセプトそっくりの王様のこと? よくわからないわ。大魔法のやり方が書いてあるけど……これは、発動されてないのかしら? よくわからない……」
私はもう1度同じ場所を読み直す。何度読んでも理解できなかった。ただ、王宮の一室というのと柱に埋め込んだ宝玉というのには、心当たりがあった。
どうしたものか……こんな大規模なものを本当に起動するのだろうか? 私には、ここまでの魔力はないから、無理だろう。違うページをめくり、見ていると……婚約の儀式が書いてあるところに出くわす。
赤薔薇の刻印が胸元に顕現したと書かれているので、私が見た姿見の聖女であろう。私は、書かれていた場所と同じところをそっと撫でる。その場所には、私の白い肌があるだけで、何もなかった。
「あの聖女は私じゃないはず……刻印がないもの」
次のページをめくると、聖女のお披露目で使われた魔法が書かれていた。
「あった! これは……光の魔法? でも、呪文がない……無詠唱で出来るってことなのかしら? 今の私なら……あるいはできるかもしれないけど……雪が降るように、温かな光の粒が国民へと降り注いだ。かの君のことを想えば、想うほど……なかった力が湧いてくるようだ……って、何? かの君に恋をしていた? 愛情があった? 詳しいことが何も書かれてない! もぅ!! 肝心なところなのに……」
誰もいないことをいいことに足を放り出した。本を持ち上げるとジャランと音がする。チェーンがついていて持ち出せない。セプトたちにも見てもらおうとしたのだが……無理そうだ。
「光の魔法……かの君を想って……雪が降るように温かな光の粒が降り注いだ……か。この魔法も、かなりの魔力を必要とする気がするけど、私の魔力って、どこまでが限界値なのか、まだわからないのよね? 失敗するかもしれないわ。とにかく、本があったことを伝えなくちゃ!」
椅子から立ち上がり、私は扉を開いて外に出た。すると、外にいたニーアが涙目で私に抱きついてきた。驚いて、「どうかしたの?」と聞くと、セプトもカインも焦っていた。
「どうかしたの? じゃない! どこに行っていたんだ!」
「どこって、ここの扉から、中に入っただけなけど……」
「急にいなくなったら、驚くじゃないか!」
「いなくなった? 言っている意味が分からないけど……」
私は三人を見まわし、一人きょとんとする。「ここに扉がある」と言っても伝わっていないようだ。
「そういえば、あったわよ! 聖女の魔法。ただ、結構な大規模な魔法になるみたい……私にできると思う?」
「ビアンカ様なら必ず!」
「あぁ、俺が当日もついているから、大丈夫だ」
「それなら、安心ね!」
「それで、そこには何が書かれていた?」
「聖女の魔法は光属性の魔法みたい。雪のように降り注いだってなっていたわ!」
「降り注いだって……結構な量の魔力を必要とするのでは?」
「そうなの、カイン。魔力がなくなる可能性も視野に入れる必要があるわね。当日は、倒れるかもしれないから、お願いね? セプトとカイン」
「「わかった」」
二人共がニコリと微笑み、支えてくれる約束をした。まだ、魔法が何かまでは……判明していないが、ない記憶を辿るしかない。
「とりあえず、目的の魔法は探せた。お昼に出かけるとしよう」
セプトの言葉で、お腹がすいたことを思い出す。ぐぅっと私の腹の虫が鳴けば、静かな図書館も笑い声に包まれた。
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