聖女っぽい?

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聖女っぽい?

 お忍びから帰れば、セプトはすぐに政務へ行ってしまう。城につき、「じゃあ後で」と背中を向けたとき、思わず、服の裾を引っ張ってしまった。 「うーん、行きたくなくなるから、そんなことしちゃダメ」  無意識のうちにしていたようで、セプトに指摘されすごく恥ずかしい。 「ご……ごめんなさい! 行ってきて! ほら、早く!」  慌てる私をよそに、城の正面玄関、文官や武官がたくさんいる中で、抱きしめられた。驚き上を向いたら、指でアゴをくいっとあげられ、キスをされる。突然の出来事に私だけがぼんやりしていたが、見せられていた周りのものからは、「おぉー」とかピーッと指笛吹いていたりと囃し立てられることとなった。 「さて、行ってくる! カイン、ビアンカを部屋まで連れて行ってくれ!」 「仰せのままに」  忙しいのだろう、振り向きもせず、去っていくセプトの後ろ姿をただただ見送った。 「なかなか、大胆なことをしますね? さっきから。ビアンカ様、セプト様を煽ってますか?」 「そ、そ、そんなことないわよ! 行きましょう! 私たちも」  取り残された私たちに、周りの自然と視線が集まる。肯定的でも否定的でも、刺さる視線は、とにかく恥ずかしいし痛い。そそくさと、その場所を離れることにした。  その夜もいつものような時間を過ごし、眠ろうとした。しかし、昼間の約束じゃないが、耳元で「好きだ」、「愛してる」と囁き続けられることになる。  そのうち、眠気に負けたのだろう、眠るセプトに、「私もよ」とささやき返して眠った。セプトに抱きつきながら……。  いつの間にか、この寝室で起きるのが当たり前になってきた。人の慣れとは怖いものだ。「おはよう」と声をかけると、優しい声が返ってくる。甘やかされる時間が、とんでもなく愛しい。 「今日は、聖女のドレスについて話すからそのつもりで」 「採寸をするのよね? 何か決まりがあるの?」 「特には……文献には何も載っていなかった。ビアンカが嫌でなければ……」 「あの絵のようなドレスかしら?」 「あぁ、あれはどうだろう?」 「うん、とっても素敵だと思うわ!」 「じゃあ! あとは採寸だな……」  ニヤっと笑うセプトはなんだかやらしい。両手で胸を隠すようにしたが、すぐに解かれてしまった。特に何かするわけでもなく、ポスッと私の胸に顔を埋める。可愛らしい仕草に思え頭を撫でた。 「ここまでは、大丈夫」 「えっ?」 「あぁ、なんでもない。ビアンカは、好きなように頭を撫でていてくれ」  言われた意味が分からず、本人がいいというので撫でまわす。 「そういえば、刻印は現れないんだったな?」 「えぇ、そうよ? あった方がいいかしら?」 「んーそうだな……」 「じゃあ……」とセプトは夜着を少しはだけさせ、聖女の姿絵の赤薔薇の刻印と同じところにキスマークをつけた。 「あっ!」 「一緒だな」  胸元に赤く花弁のようなキスマークを満足そうにしている。「これから、採寸をするために服を脱ぐのになんてことをしてくれるんだ」と言ってみても、「減るもんじゃないんだから見せておけば?」と開きならおられた。そういうことではないのだが、つけてしまったものは仕方がない。魔法で消せないこともないが、満足そうな表情のセプトのためにそのままにしておいた。 「セプトの衣装はどうするの?」 「俺は、正装があるから、それを着るけど?」 「当日は、隣を歩いてくれるの?」 「もちろん、エスコート役は誰にも譲らないさ」 「よかった」 「よかった? 俺で?」  くっくっと笑うセプト。「よかったよ」ともう一度言うと喜んでいた。カインという手もないことはないが、隣を歩くのはセプトがいい。 「そろそろ起きないか? ニーアが部屋に入りにくいだろう?」  上に被さっていたセプトの重みがなくなり軽くなる。ニーアがはかったように部屋に入ってきて支度を済ませ、朝食を済ませたころに仕立て屋がきた。  まずは、採寸からというので、寝室で仕立て屋にクルクル回される。  服を脱いだときに気がついて驚いていた視線の先は、間違いなくセプトがつけたキスマークだろう。そのことには、何も触れずにいてくれた。  採寸が終わり、宝物庫へと向かい、姿絵を見せ、このようなものがいいと伝えれば、あとは仕上がるのを待つだけとなった。 「久しぶりに鳥籠へ行ってきてもいいかしら?」 「帰らないか?」と何度も確認してくるので、「戻ってくるわ」と言えば、安心したようにセプトは政務へ向かい、私は昼から鳥籠へに行く。しばらく、帰っていなかったにも関わらず、ミントが世話をしてくれていたおかげで薬草たちは元気に育っていた。相変わらずのミントが、赤ちゃん言葉で植物たちに話しかけていた。  ちょっと見ない間に懐かしいと思うだなんて……と頭を振り、ミントへ声をかけた。 「なんだ、ビアンカ様でしたか」 「えぇ、私ですよ? ここは私の鳥籠ですから。薬草たちはミントのおかげで、元気に育っているわね!」 「当たり前です! ただ、魔法の力はないので育ちは緩やかですね?」 「今日の水やりは、終わっていて?」 「まだです」 「じゃあ、私が。あと、実験をしたいのだけど……いいかしら?」 「この子たちのストレスにならないならかまいませんよ?」 「ミントは、植物第一ね?」 「当たり前です」と返事が返ってきたところで、水やりをした。 「次は、聖女の魔法を練習させて!」  カインとニーアは、聖女の魔法の記述を読んでいたが、いまいちわかっていなかった。ミントは興味があるのか、前のめりである。 「見つかったんですか?」 「これが、正解かはわからないけど、それらしい魔法をね?」  パチンと指を鳴らす。すると光の粒が空中に浮かぶ。優しい光を伴って、薬草たちに降り注いでいく。しばらくの間、薬草たちは、ほんのり光っていた。 「それが、聖女の魔法ですか? なんというか……」 「……地味?」 「……んーわかんない! それっぽい魔法を……ねぇ? って、薬草たち成長してない?」  ムクムクっと大きくなっていく薬草たち。慌てていると、ミントが「ちょうど欲しかったんですよ!」とナイフを取り出して刈り取り始めた。 「いやいや、待って! 私、光の魔法を使っただけなんだけど!」  大慌ての私をよそに、ミントはホクホクと必要な分を刈り入れしていた。 「ど、どうしよう? カイン、ニーア!」 「どうしようと言われましても……それ、何の魔法なのですか?」 「本に書かれていた通り、光の魔法で雪が降るように見えたって書かれてたから……どうしよう!」 「じゃあ、俺たちにかけてみてください! それで、なんともなければ、なんともないですから!」 「いや、ダメでしょ! 何かあってからでは!」 「いいです! ビアンカ様の魔法、ビアンカ様を信じていますから!」  ニーアに「大丈夫です!」と微笑まれた。不安はあれど、私は意を決してイメージをした。雪のように降り注ぐ光の粒を。  パチンっと指を鳴らしたとき、カインとニーアに優しい光が降り注ぐ。ほんのり発光した後、特には何も起こらなかった。 「何を想いながら、魔法をかけるのですか?」 「みなの幸せを考えながら……」 「では、私の幸せはビアンカ様がいてくれることですから、もう、幸せで満たされていますね。胸がぽうっと温かいです」 「俺は、腕が治ってから、心配かけたみなに感謝しているんです。ビアンカ様と同じく、国民を想っています。確かに、胸が温かい」  カインとニーアがそれぞれ私に微笑みかける。 「ミ……ミントもどうかしら?」 「遠慮しておきます。この子たちが、幸せならとても幸せなので!」  うっとり薬草たちを愛でるミントにも、こっそり魔法をかけた。 「しかし、これを大規模でするんですよね? 大丈夫ですか? また、倒れたり……」 「大丈夫! 今回は、聖女の宝飾品を触媒にするから! そのために魔力を貯めに貯めているのですもの!」  ニッコリ笑うと、「前科がありますからね!」とミントに釘を刺された。私のことを心配してくれているようで嬉しい。 「それにしても、聖女っぽい?」 「それは、セプトのお墨付きですから!」  胸を張ると、「そうでした」と皆で笑い合う。そんな優しい時間は、聖女のお披露目会の準備が始まるとなかなか取れずにいた。あっという間に、お披露目会の日となったのである。
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