冥永夏

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どうにもこうにも、新幹線の右側の座席に座ると沁みる。中学生の頃、修学旅行で見たあの鮮やかな景色を思い出してしまうからだ。左から右に新緑の景物は流れる。富士の山が感嘆の声を作り、反対側の人達も懸命に探した。 トンネルに入った途端二人の顔がこちらを見詰めて来て気まずくなった。何処か上の空で拙い会話をしたね。 もう二度とこの年齢、感情、仲間のまま旅行をすることは叶わない。どんなに祈っても努力しても。だから悲しい。バスがホテルに着いた時、少し寂しかったんだ。今日が終わってしまったってね。明日もあるんだけど、今日がとてつもない速さで過ぎていくから理解が出来なかったよ。眠そうな目をして、晩御飯を食べて、仲間たちとカードゲームをしたね。とっても楽しかったよ。 朝になっても昨日のことが夢みたいに思えてくるんだ。もしきっとそうなら、絶対に覚めて欲しくない。友の視線の先に卒業の二文字があって現実味が湧いたよ。 最終日になると、朝から皆の機嫌が悪くて、目付きが凶暴だったよ。最後のバスレクで、大袈裟に笑って、今日は終わるんだ。新幹線の窓から見える景色は右から左に流れて、ゆっくりと収まって行くんだ。 もう、こんな夏は手に入らないよ。 全てが、美しかったんだ。
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