Day0

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 父の救急搬送の電話を受けた時も、莉子から詳しく話を聞いている時も、コオは、自分が冷静であろうとしていたし、実際、奇妙なほど冷静だった。  父はおそらく脳梗塞か脳出血だ。あるいはその両方、とコオは思った。仕事柄、脳血管系の病気には、素人よりは知識がある。救急搬送が早かったようなので、それはよかった。  コオは、まだ夜も明けず、がらんとした暗い駐車場に車を止めた。  病院の救急入り口からはいったコオと莉子は、医者が説明にきてくれるのを待った。莉子とここで何を話したのか、コオはもうあまり覚えてはいない。ただ、二人以外誰もいなくて、ひどく静かだったので、声を出すのがはばかられて、黙っていたようような気がする。病院のスタッフか医者から、入院の手続きをこれからしなければならないことなどもここで聞いたはずだが、これも、はっきりとは覚えていていない。ただ、医者が『お父さんが意識を取り戻すかどうかは、本人の頑張り次第です』といったのだけは、今でもはっきりと思い出せる。    父は脳出血だった。言語野。  ああ、父は死ぬのだな、とそのとき、冷静にコオは思った。
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