幼少期の記憶1〜イグアナの娘

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幼少期の記憶1〜イグアナの娘

 少しだけここで二人の幼少期の話をする。ほんの少し。多くの問題の種はこのとき芽生えていたように思えるし、それは、ここから先の物語を理解する助けになると思うからだ。  コオ、というのは彼女のあだ名だ。コオは自分の本名が嫌いだから、ここではそのままそのあだ名を使う。そもそも本名は響きがかわいくないし、コオの両端がわずかに上を向いた切れ長の目は、そのかわいくないコオの名前にぴったりであるように、思えた。  かつて読んだ、本の主人公の一人と同じ響きの名前。コオと同じ名前を持つそのキャラクタも、目の端がつり上がっていた。不細工で意地悪で、頭が悪くて、嫌われているのに、何故か自分は人気者で、センスがいいと思いこんでいる。コオは自分かわいくはないと思っていたし、友達とうまくやっていくのが苦痛だった。この本の作者は自分をモデルにしたのではないかとさえ思っていた。周りから見ると、自分は、こう見えているのだと思い、それがひどく苦しかった。同時にコオは、自分自身を嫌い、憎んだ。  そのコオと同名のキャラクタは嫌われるために設定されている(とコオは思った)もので、コオ自身も全く好きになれず、それは翻って自分はこの名前を持った時点で、親を含めた誰からも(自分自身からさえ)愛されることなどないのだという思いを強化した。  コオは自分自身から逃げ出したかった。もちろんそれがかなわないことも理解はしていたのだけれど。
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