幼少期の記憶1〜イグアナの娘

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 莉子は、コオの3歳年下の妹だ。 3月の早生まれで、同級生たちの中で大概は一番遅い誕生日だった。 それは一般的に、成長がある程度頭打ちになるまでは、彼女が同級生たちより、様々な面で少し遅れがちだ、ということを意味していた。  身体的にさほど丈夫でなかった莉子は、そのせいで、いつも母の視線を独り占めしているようにコオは感じていた。  だからコオは、莉子がうらやましかった。可愛らしい名前も含めて。  他者とのコミュニケーションについてコオは大きな問題を抱えていたが、健康であったし、莉子とは逆に、心身共に、良くも悪くも周りより早熟だった。 コオは自分の問題は妹の問題に比べて大したことではないから、心配してもらえないのだ、と思っていた。  母は、コオが母の手にすがろうとすると、たびたび振り払った。今では、体だけは大きかった赤ん坊の莉子を片手でだっこするのは、母には無理だったのだと理解しているつもりだ。しかし、子供だったコオはそれでも母と手をつなぎたかった。  いや、莉子の重さは関係なかったのかも知れない。中学か高校の時も、一緒に買物に行ったときコオが腕を組もうとしたら、やはり母は振り払ったのだから。  その時振り払われたときの衝撃を今でもコオは覚えている。  コオが小学校に上がる前から、いや、その時期こそ、まるで心の奥底まで刷り込むように母は繰り返していた。『お姉ちゃんなんだから、莉子ちゃんのことお願いね」『莉子ちゃんとお留守番しててね』『お姉ちゃんでしょ』「あなたはしっかりしてるから、莉子ちゃんの面倒を見ててね』 早熟だった、けれど幼かったコオが、莉子を守ることが自分の使命のように感じたのも、仕方なかったかもしれない。しかし、それはコオが母に愛されるためには、莉子を守らなければならない、というゆがんだ使命感であったのもまた事実だった。
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