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プロローグ
それは、ある年の1月の事だった。
1週間前、この地方では、珍しいくらいの大雪が降ったが、この日は、積もった雪はもうとほとんど解けてしまっていて、日陰にわずかに残っているくらいだった。
夜中3時。
(何時だと思ってんだ…?)
嶋崎コオは、けたたましく鳴る固定電話の受話器を取り上げて、耳に当てた。
「.・・・嶋崎です・・・?」
「お姉ちゃん、パパが倒れた。救急車で運ばれたの。J大学の医療センター。車で、私を病院まで連れて行ってくれない?」
この一本の電話がすべての始まりだった。
*****
これはコオという女性の、1500日にわたる現代の家族戦争の記録だ。
突如放り込まれた、という表現しかできない過酷で、そしてあまりにも突然に始まった家族戦争。
表面的にまず現れてきたのは8050問題だ。
近年日本では8050問題とよばれるものが増加している。「80」代の親が「50」代の子どもの生活を支えるという問題。
生きていくには充分な収入のある仕事があり、普通の二人の息子と、会社員の夫を持つコオは、こんな問題は無縁だった。
しかし、この電話をきっかけに、彼女は否応なく8050問題に関わることになる。
そして、その背景には、毒親、精神疾患、未婚かつ無収入の子供、引きこもりなど、驚くほどたくさんの複数の現代日本の問題があった。いや、そう言った複数の問題の集大成が8050問題なのかもしれない。
彼女はこの家族戦争を通して、自分がいくつかの現代の問題の渦中の人間であったことに初めて気づき、苦しみ、それを改善するために戦うことになる。
今日本には、これらの問題に対処するはずの行政窓口が複数ある。しかし多くの、やる気のない役所の人間たちは、救いを求めるコオを支援するどころか問題を複雑化し、挙句の果てに手遅れになるまでに悪化させてしまう。これも語っていこうと思う。
この記録は基本コオの側からのみ語られており、他の家族側からは話は聞けなかった。だからコオ以外の他の家族の考えを、あたかも彼らが考えたかのように主張はしない。例外は役所の人間たちについてだが、できる限り、『コオには、彼らがXXXと考えているように見えた』という風に断りを入れる。つまり、できる限り、事実に基づいて記述していこうと思う。
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