ソロデビュー

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ソロデビュー

「僕はグループのデビューは嫌です。矢弓木カイトさんみたくソロデビューしたいです」 「あのさあ、生意気過ぎる。時代が違う。矢弓木カイト、世耕アキラみたいなソロデビューは今の時代に合わない。グループに入らないならデビューの話はナシ!」 「それでいいです。僕はグループよりソロの方が売れる。何の策略、戦略もなしに行ってる訳じゃありませんから」 「ソロの方が売れるだと?なぜそう思う?」 「他のメンバーという引き立て役なんていなくても、歌、ダンス、トーク、ドラマの役、CM、どれでも結果を出してきました。20年ぶりの、チェイスプロダクションからのアイドルソロデビュー。区切りもいいし話題になりませんか。矢弓木カイト先輩と共演で盛り上げる」 「自惚れが強いな。矢弓木と共演したら食われるぞ。あいつはソロの男性アイドル像を造り上げた。大人しくグループデビューすれば、センターの座と事務所イチオシだ。手堅く行けよ」 「手堅く行けば、また新しいグループがデビューしたと思われるだけです。20年ぶりのソロデビューで一か八か賭けてくれませんか、僕に。群舞で名を馳せている、エイティーエイトプロダクションがここ一番のときによく言う、『わが社の全力を賭けるプロジェクト』。あれをやり返す。チェイスプロダクションを今の地位に押し上げた、矢弓木カイト先輩のように、僕はチェイスプロダクションの顔になりたいんです」 「勢いだけはいいな。鳴かず飛ばずならクビだ。それでもソロを選ぶのか?」 「グループでデビューしても売れなきゃクビです。デビューするならソロしか考えられない」 「矢光、お前に矢弓木から一文字取った、矢光という芸名を与えたのが正解なのか失敗なのか。試させて貰うとするかな」 「どうせそのつもりでしたよね?僕から言い出さなければグループ、ソロを直訴すればソロにするつもりでここに呼んだ」 「なぜそう思った?」 「矢弓木先輩のスケジュールと僕のスケジュールが重なっている。僕の方にだけ予定の詳細は伝えられていない。デビューが近そうな同期には、矢弓木先輩からスケジュールが漏れてない。僕だけに矢弓木先輩から、『最近、スケジュール重なる、いつか共演かもな』、こんなLINEが来てる。これ、社長が先輩にやらせてるんでしょう?」 「勘だけはいいな。素行や女関係も気をつけていて、デビュー直後のスキャンダルですぐ沈むこともない。一つ聞くぞ、なぜソロアイドルになりたい?」 「若さという一瞬で消える武器を瞬間最大風速に変えて、人を魅了してみたいんでよ、たった一人で…。役者や歌手はもう少し大人になってからでも目指せる。アイドル、しかもソロになるのは今しかない」 「分かったような口聞きやがって。だが、なかなかの勝負勘だ。売れなきゃジャーマネで拾ってやるさ」 「売れなかったら業界の中の他分野の仕事はしません。マネージャーでもいいとか妥協もしません。売れなきゃ、普通に受験勉強して学生やってリーマンになります。裏方でもいいとかそんな半端な気持ちじゃないんで」 「その強気がどこまで続くか見物だな。その年齢で家族の生活を背負ってる奴は違うな、覚悟が。昔の矢弓木と似てる、環境だけは」 「環境だけじゃなく、仕事ぶりも負けません。矢弓木先輩のようなプロフェッショナルなソロアイドルになります、必ず。よろしくお願いいたします」 「矢光、死ぬ気で働け。20年ぶりの大勝負だ。お前がコケたら、後に続くグループが一つデビュー出来ない。そのくらいお前は金食い虫だ。プロモーションに掛ける金を倍にして社に利益として返せ」 「倍でいいんですか?ライバルのエイティエイティートプロダクションの経営が傾くほど稼ぎますよ、僕は必ず。二十歳までの四年間で一生分稼ぎます。金のない不安なんてもうこりごりなんで」 「今どきはもうほぼいない、ハングリー精神溢れる野性的ないい眼をしてる。その癖、カメラが回ると、耳の垂れたウサギみたいな目をしやがる。やれるもんなら四年で一生分稼げ。アイドルの旬は一瞬だからな」
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