追憶

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「司祭様!」  彼女は救護院のベッドに横たわっていましたが、以前よりもずっといい顔色をしていました。  私はもう司祭ではありませんでしたが、彼女の笑顔を曇らせたくないという思いから、そう呼ばれることを否定しませんでした。 「彼女にはもう、神の力を注ぐことはありません」  教会の者の言葉に、私は頷きました。  彼女は状況を理解していないようすで、不安そうに首を傾げました。 「大丈夫です。  生きる意志の強いあなたなら、きっと自力で回復できます」 「司祭様、ありがとうございました」  無邪気な笑顔が私に向けられました。  これで最後かと思うと、胸が締め付けられます。 「あなた、名前は何というの?」  私は彼女のことを決して忘れないよう、名前を尋ねました。 「私に名前はありません。呼んでくれる家族がいないのです」  なんということでしょうか。  私は一瞬、彼女を救うべきではなかったかもしれないと考えてしまいました。  これから先、彼女はどうやって生きていくのでしょうか。 「司祭様、私に名前を付けてくれませんか?」  彼女はそう言って、困惑する私の目をじっと見つめました。 「どんな名前が良いでしょう」 「私は大きくなったら司祭様のようになりたいです。  司祭様のお名前をいただけませんか?」  教育など受けていないように見受けられましたが、彼女はとても聡い子供でした。  私は、やはりこの子を助けてよかったのだと思い直しました。  この子ならきっと力強く生き抜いてくれる。私はそう感じたのでした。 「私の名前ですか。そう立派なものではありませんが、あなたが望むなら差し上げましょう。  あなたの名前は×××。  ×××、あなたに祝福を」
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