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「嘘でしょう?」
「嘘ではありません。こうすることでしか、新しい聖女様は生まれないのです」
彼女の黒髪はもう靡きません。
石のように固まり、毛先からパラパラと崩れ出しました。
「いやです!
たまご、あなたは元居た場所に帰りたかったのではないですか? 父母のいる故郷へ」
「私には父も母も、故郷もありません。帰る場所なんてないのですよ」
「そんな」
「もしも私に帰る場所があるとするなら、それは司祭様のところです。
私は司祭様のお陰で今日まで生きてこられたのです」
私の心臓はドキリと大きな音を立てました。
そう錯覚してしまうほど、私は驚愕したのです。
「あなたは私が犯した罪を知っているというのですか」
「ええ。そうです。
世界中の人々を救うために、たった一人が犠牲になる。
司祭様の犯した罪に比べたら……、教会の掟と比べても、これはとても小さな犠牲なのです」
どうしてなのでしょう。
私はあの日犯した罪を、救ったはずの命の名前が思い出せませんでした。
何度も何度も思い返し、後悔してきたはずなのに。
彼女はもうほとんど人間としての形を保っていませんでした。
どんどんひび割れていきます。
たまご、まだ聞こえるでしょうか。
せめてあなたの名前を呼んであげたい。
そう願うのに、何もできない無力な私を赦してください。
「×××様、ありがとうございました。どうかお元気で」
そして、目を開けていられないほどの光が私を包みました。
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