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「ではこれから各委員を決めていこうと思います」
教卓の前で意を決して声を放つも、担任が外れた瞬間にがやがやと騒がしくなった教室では小さな声は掻き消されてしまう。
雑談するだけではなく、携帯を取り出しては騒ぎ立てている男子生徒もいる。
「おい、お前やめろって」
「ぎゃはは!お前のこの顔やべー」
「消せよ!」
「むりむり、SNS投稿すっから」
なんとなく予想していたけれど、これは……想像以上にきつい。
気にしたら負けだと自分に喝を入れ、大きく息を吸い込んだ。
「じゃあまず、生活委員からいきます」
さっきより大きく声を張ったけれど、それ以上に騒ぐ生徒の声が鼓膜を劈く。こんなにも騒がしいというのに肝心の担任は見向きすらしない。典型的な放任主義らしい。
「立候補する人、いたら手を挙げてください!」
半ばヤケクソ気味に大きな声でそう言うと、ひとりの男子生徒が「はい!はいはい!」と勢いよく挙手してくれた。
誰かが反応してくれたことにホッと安堵したのも束の間だった。
「え、っと…じゃあ小渕くんは生活委員でいいかな?」
「そうじゃなくて、浅野サンに質問!」
「質問…?」
「ズバリ、彼氏いますか!?」
どっと笑い声が起こる。「ちょっとやめなよ」と咎めるような声を出す女子生徒も、言葉とは裏腹に顔には微笑を浮かべていた。
「小渕デリカシーなさすぎだろ」
「いやだってかわいいし気になんじゃん!」
「ぎゃはは!お前、ナンパかよ」
下品な笑い声と冷やかす声が無数に飛び交う。そこでようやく「おい、うるさいぞー」と担任が止めに入ったけれど、そのやる気のない声に誰も耳を貸そうとしない。
不愉快だった。すごく。
この高校を選ぶんじゃなかったとさえ思うくらいには、不愉快極まりなかった。
……だめだ、泣きそう。
涙腺が緩み目に薄く涙の膜が張っていくのが分かって下唇を噛み締めた、その時だった。
―――ガンッ!!!
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