1「ゆいいつの光」

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「―――羽菜(はな)」 駅の改札口の前。スマホを弄りながら時間を潰していた時、名前を呼ばれた。顔を上げるとスーツ姿の理仁が立っているのが見えて、弄っていたスマホをバックの中に入れ、笑顔で駆け寄る。 「仕事お疲れ様」 「羽菜もな。結構待った?」 「ううん。10分くらいだよ」 私の答えに理仁は「そ」と短く相槌を打ってから駅の出口へと向かう。その隣に並んだところ「なんか食いたいもんある?」と質問が飛んできた。 「んー……焼き鳥かなあ」 「いっつもそれだな」 「だってお酒を飲むってなると食べたくなるんだもん。あ、でも理仁が嫌なら別のものでもいいよ?」 「いやじゃねえよ。いつものとこでいい?どっか新しいとこ開拓するか?」 「いつものところがいい!」 即答した私に理仁は少し噴き出すように笑いながらも「了解」と快諾してくれた。 何故だかよく意外と言われるけれど、私はオシャレな創作居酒屋より、おじさん達が集うような大衆居酒屋の方が好きなのだ。 駅から徒歩数分のところにある とある居酒屋はまさに大衆居酒屋という感じで、客は圧倒的に男の人の割合の方が多いだろう。焼き鳥が名物らしいけれど他のメニューも美味しくて、お酒の種類も豊富。そしてその上リーズナブルときたら、お気に召さないわけがない。 私と理仁は月に最低2回はこうして仕事終わりに落ち合って、外で飲む。必ずそうしようと決めたわけではないけれど、いつの間にか習慣になっていた。 私はこの時間がすごく好きだ。 この歳になってつくづく思う。穏やかで平凡な日々こそが、この上なく幸せなものなのだと。 「今日は手羽先も食べちゃおう」 「前、悩みに悩んだ挙句やめてたもんな」 「そうそう!あれ、すっごく後悔した~」 「だから食えば?っつったのに」 「今日は食べるもん」 「あーそう」 取るに足らない他愛もない会話さえも、幸せに繋がっている。全て失くしたくなくて、まるで手繰り寄せるように理仁の手を握ろうと手を伸ばした、その時だった。 「────えっ、理仁?」
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