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今でも覚えている。
通話に繋がるまでのコール音がまるで永遠のような長さに感じたこと。
『あぁ、うん。そう、俺』
透き通るような彼の声も、その声を掻き消してしまいそうなほどに鳴り響いていたドクドクと脈打つ自分の心音も。
『今、全部が終わって帰ってきたんだけどさ』
彼が言う、“全部が終わる”の意味が分かってしまった。分かってしまったからこそ、胸が張り裂けそうに痛くて、苦しい。
電話をかけたのは私の方なのに、早々に言葉に詰まってしまった。
喉に鉛が落ちてくるようなあの瞬間を、今でも鮮明に覚えている。
『なんか、すげー燃えてて』
よく分からなかった。
理解が出来ず、少し遅れて、その言葉を繰り返したような気がする。
燃えてる?
燃えてるって、どういうこと?
理解が追いつかない。乱れる思考をそのまま表すように、くしゃりと自分の髪の毛を掴んだ。
周りの雑音、風が吹く音。
『なんかもう、全部燃えてんの』
諦めたような透き通った低音に雑ざって、遠くでサイレンの音が響いているのが聞こえる。それは紛れもなく、消防車が駆けつける時に放つ音だった。
『…ちょうど、良かったのかもな』
ぽつりと呟かれた言葉はなんの重みもなく、無機質に私の耳に落ちてくる。
『これで、良かった』
まるで自分に言い聞かせるような彼の声で、世界が切り離されていくように感じた。
何が良かったの。
何も良いことなんてない。
だって昨日まで、私たち、あんなに笑い合っていたのに。
当たり前のように、未来を語り合っていたのに。
『羽菜ちゃん』
彼が私を呼ぶ声が、今でも鮮明に私の中に残っているのに。
『最後に声、聞けてよかった』
私だけが置き去りにされていく。
何度も待って、と叫んだ。
何度も何度も、私は彼の名前を呼んで、そして、生きて、と叫んだ。
お願いだから生きて、と。
たとえ会えなくてもいい。
彼が言った通り、これが私と話す“最後”になってもいい。
どこで誰と、何をしててもいい。
ただ、生きてほしくて、その思いのままに、生きて、と叫んだ。
―――羽菜ちゃん、
彼が私の名前を呼ぶ。
涙で前が見えない。
今すぐ駆けつけたいのに、その場に崩れ落ちるように頭を垂れ、涙を流すことしかできなかった。
もう彼が戻ってこないことを、私は十分に分かっていた。
だからこそ、足が動かなかった。
今でも懲りずに繰り返し思い出す。
『幸せに、なって』
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