悲哀

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悲哀

「3秒、かぁ」 相楽梓は、半ば笑いの混じったため息をこぼした。 そのため息に答える人は誰もいない。 8畳ほどのワンルームの部屋には梓1人だ。 ただ録画していたシーンの終わった32インチのテレビ画面が、最近人気の歌手の新曲を流している音だけ小さくBGMとして流れている。 録画していたのはある音楽番組だった。 梓が所属しているグループが新曲を歌いに出演した番組。 桜の散る季節の儚さを歌った卒業ソングのミュージックビデオは埼玉県のある公園で撮影されたらしい。 らしい。 自分のグループにも関わらず、そういう伝聞でしか言えないのは、梓がそのミュージックビデオの撮影に参加していないから。 そうだ。 梓はグループのいわゆるアンダーメンバー。 アンダー、っていうのは文字通り、「下」っていうことだ。 梓が所属している様なたくさんメンバーがいるアイドルグループでは、全員が全員発売される新曲を歌える訳じゃない。 世間からのスポットライトを浴びてキラキラと輝いてみえる選抜メンバーと、陽の目に当たらず、陰で地道な活動を重ねるメンバーとがいる。 梓のグループではそう言ったメンバーはアンダーと呼ばれているのだ。
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