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「もう、そろそろかなあ」
誰に聞かれる訳でもない独り言を、ほんとは誰かに否定してほしい独り言を、寂しい明かりの灯ったワンルームに投げる。
高校生の時から始めたアイドル生活は、早いものでもう8年にもなる。
何千人が参加したオーディションから選ばれて、大好きだったアイドルになれる。そうウキウキして上京した時から、もう8年。
いつの間にか、今年の誕生日を迎えるとアラサーと呼ばれる歳になっている。
世間一般的にはまだまだこれからって歳だろうけど、アイドルにとってはデッドライン。賞味期限ギリギリだ。
センターになれる、と思ってた訳でも、なりたいと強く思っていた訳でも無かったけれど、もう少し、テレビに出たり、ランウェイを歩いてみたり、雑誌の表紙を飾ったり、そういうキラキラしたアイドル生活を夢見てた。
でも実際はそう思い通りに進む訳じゃない。
センターどころか、選抜メンバーにだって一度たりとも入れたことはなかった。
テレビにだってほとんど出たこともない。
一時期だけ、グループで一番良い大学に通っていたという理由で、高学歴アイドルとしていくつかの番組に呼ばれたことはあったけれど、これといった爪痕も残せないまま終わってしまった。
だから、今回の歌番組出演は梓にとって、願ってもないチャンスだった。
出演するはずだったメンバーが、体調不良で出演できなくなった。
それで巡ってきたチャンス。
三列目の一番端っこだけれど、久々にテレビに出られる!
一生懸命、披露する機会がないかもしれない楽曲でも練習した甲斐があった!
出演前はそうやって小さな少女のようにワクワクしていたけれど、実際家に帰って録画を見ると、襲って来たのはなんだか、諦めに似た感情だ。
「まあ、そうだよね」
ふぅ、ともう一度小さくため息をついた。
周りにはもっと可愛い子がたくさんいるんだ。
それは近くにいる自分が一番わかっている。
他にも、ダンスが上手い子や歌がうまい子。
トークが面白い子。
他分野に精通している子。
色んな子がいて、色んな魅力がある。
自分がアイドル好きだった梓はそんなこと痛いくらいに分かっている。
その中で自分が特別になるにはどうしたらいい?
色んなことを考えながら自分なりに努力はしてみたけれど、きっともうこれくらいが、自分のたどり着ける最高到達点なのだ。
ピッとリモコンを操作してテレビの電源を消す。そしてそのまま少し硬いベッドへダイブすると目を閉じた。
いつもは気になることのない、エアコンの音が、やけにうるさく耳に響いた。
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