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「佐竹、構図は決まりそうか」 「はい。だいぶイメージが固まってきました。こんな感じで描いていきたいんですけど……」  休憩を終え、優奈がスケッチの続きを描いていると顧問の和田先生が様子を見に来た。優菜がスケッチブックを差し出すと目を細めて絵に視線を落とす。じっくりと眺めてから気になるところがあったのか一点を指さしながら「ここのバランスが――」などとアドバイスをしている。それに優菜は頷きつつも質問をしながら線を足したり、消したりしていた。  どんな絵になっているのか気になっている私はその会話に耳をそばだてた。優奈は完成するまで秘密だといってそのスケッチを見せてくれないからだ。どんな絵になっているかイメージしようとしたが、断片的に漏れ聞こえる単語だけでは全く想像もつかなかった。絵心が無いと早々に選択科目から美術を外した私だから余計かもしれない。  二人の会話から絵の想像をするのを諦めた私は室内を見渡した。美術部は部員それぞれが自由に創作をしている。美術展に向けて活動はしているが、下絵を描いている人や着色に入っている人、彫刻などの立体物を作っていたりと様々だった。モチーフが決まらないと、外にスケッチに出ていって部室に来ない子もいるので美術室にいる人は日によってまちまちだった。  優奈に初めて会ったのも外でスケッチしている時だったなと、彼らの作業の様子を眺めて思い出していると、話が終わったのか和田先生は黒板前の自身の作業机に戻って行った。そうして作りかけだった自分の作業に取り掛かっている。和田先生は部活時間中に一緒に何かを描いていたり作っていることが多かった。今は手のひらサイズのものに彫刻を施しているようだ。大きな手が器用に動いている。  優奈も仕上げとばかりに鉛筆を動かし始めたので、私も姿勢を正した。
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