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「真弓ちゃんのおかげで下絵が完成したよ」
「役にたてたなら良かったよ」
嬉しそうに言う優奈に嫌な予感がしながらもぎこちなく笑った。そんな私に気づかず優奈は言った。
「あとはこれをキャンバスに写して色を塗ってくから、ここから先は一人で作業していくよ」
「……そっか。じゃあ、完成を楽しみにしてるよ」
「完成したら真弓ちゃんに一番に見せるからね」
ああ、やっぱり。モデルの終わりを告げる言葉に気づかれないように肩を落とす。もう美術室によることも出来なくなると思うと、また時間を持て余すことになるだろう。
お母さんが車で迎えに来ている私は、片付けがあるという優奈と別れて昇降口に向かった。一人になると心に不安が広がっていく。試合前の緊張感とは違う、押しつぶされそうな不安。精神を落ち着けようと立ち止まり無意識に手がバックにつけているお守りを握ろうとして、手は空をきった。
「……あれ? ない!?」
いつもバックにつけているお守りが消えていた。慌てて床やバックの中に落ちていないか確認する。
大会のたびに握りしめて心を落ち着けていた私の精神安定剤。もう何年もそうしていたので、端々はくたびれてはいたがまさか紐が切れるとは思わなかった。
慌ててもと来た道を引き返すが廊下には落ちていない。あと心当たりがあるのは美術室だ。私ははやる心と裏腹に、うまく動かない足に苛立ちを抱えながら松葉杖を懸命に動かした。
美術室は電気はついていたが人はいなかった。荷物はあるから備品でも取りに行ってるのかもしれない。室内を探すと鞄を置いていた棚の下の床にお守りが落ちているのを見つけた。安堵から息をつくと、お守りを拾うためゆっくりと身をかがめる。
お守りを手に取り帰ろうと顔をあげると、机の上にスケッチブックが広げて置いてあるのに気がついた。
目に飛び込んできた絵。そこに描かれていた絵に私は言葉を失った。
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