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「ごめんなさい!」  和田先生と入れ替わるように準備室に入った優奈は私の顔を見るなり頭を下げた。和田先生と色々話したおかげで、その謝罪を冷静に受け止めることが出来た。 「なんで優奈はあの絵を描いてたの」 「真弓ちゃんに高跳びを嫌いになって欲しくなかったから」  意外な答えに私は目を瞬かせた。 「私が真弓ちゃんと初めて会った時ね、本当はもう絵を描くのを辞めようって思ってたの」 「えっ」  いつも楽しそうに絵を描いている優奈しか知らないのでのびっくりして凝視してしまった。優奈は言葉を探すように視線をさまよわせている。 「自分のセンスの無さっていうのかな、描いても描いても上手くならなくて。他の人と比べて何もかもが足りなくて、評価されている人を見ると焦りばっかり浮かんできて余計描けなくなっちゃって。絵が好きだったはずなのに苦しくて苦しくて逃げ出したくなった。部室に居たくなかったから、スケッチブックだけ持って外に出たの。それでも何も描けなくて悩んでいた時に真弓ちゃんがすごいって言ってくれたの」  私は優奈に初めて会った時のことを思い出す。部活の休憩中に校庭の隅でスケッチブックを広げていた優奈に興味を持った私が声をかけたのがきっかけだった。でも思ったことをすぐに言っていたので何を言ったのかなんて覚えてない。 「同じ風景を見てるのに、こんなに優しい景色に見えてるんだねって。私の絵が好きだって。私ね、自分に自信がなくなってもう描けないって思うときはそのことを思い出すの。それにね真弓ちゃんが跳ぶ姿を見て勇気をもらってたんだよ。あの日初めてちゃんと跳ぶところをみたんだけど、成功しても失敗しても真弓ちゃんすごく楽しそうでね。見てたら私も絵を描き始めた時のこと思い出したの。評価なんか気にしないで、ただ自分の感じた素敵なものを描いてた時のこと」  優奈は宝物をそっと差し出すような優しい声音でそう言った。 「だから真弓ちゃんに高跳びをしていたことまで否定して欲しくなかったの。だけど私は口下手で上手く伝えられる自信が無かったから、絵に託そうと思ったんだ。でも騙したみたいになって、そのせいで真弓ちゃんをもっと傷つけてしまって……本当にごめんなさい」  私はただ自分が好きだから跳んでいただけだ。それに結果が出せ無くなれば、誰にも見向きもされなくなると思ってから、私以上に大切にしてくれている人がいることに救われた気がした。 「私のほうこそごめんね。言い過ぎた。優菜の絵が完成するの楽しみにしてるね」  きっと優奈の目を通してみた私は、私の知らない顔をしているのだろう。  昨日とは違う心からの言葉に優奈は涙をぬぐいながら何度も頷いた。つられて私も泣いて不細工になった顔にお互い笑いあった。  その夜、私は夢を見た。小学生の私が初めてバーを飛んだ日の夢だ。強く踏み込んで飛び、重力から解放された。いつもより近く見える空。まるでその一瞬だけ鳥になった気がした。  そうだ、私は――
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