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揺れるカーテンを視界の端に入れながら、私は窓際に座りぼんやりと視線を外に向けていた。ゆっくりと流れる雲を見るともなしに眺める。
吹奏楽部の練習している甲子園の応援曲をBGM代わりにしていると、ピーッという甲高いホイッスルの音がした。思わず下を見下ろすと、今まさに走り出そうとしている陸上部員が見える。手を上げ合図を送ったところで、見ていられず視線を外した。その動いた振動で座っていた箱椅子がガタンと鳴った。
「疲れた? 少し休憩する?」
そんな私のことを疲れたと思ったのか、優奈がスケッチをしていた手を止めた。
「ゴメン、全然大丈夫。ちょっとぼーっとしちゃっただけだから」
デッサンモデルとしてただ座っているだけだ。疲れなんて感じるはずもないのでそう言ったが、意識するとずっと同じ姿勢でいたからか肩が強ばっている気がする。ほぐすように大きく肩を一度ぐるりと回した。
「ほら、やっぱり。私も疲れちゃったし一休みする!」
そんな私を見てくすりと笑った優奈も鉛筆を置き大きく伸びをした。そして「新作のチョコ持ってきてるんだ。真弓ちゃんも一緒に食べよ」と鞄を置いている美術室の後ろの棚へ取りに行った。
私の視線の先を察してただろうに、何も言わない優奈の優しさがありがたくて、胸が痛かった。
その気づかいを無駄にしないように、そばに立てかけていた松葉杖を手に取ると後を追った。
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