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「お嬢ちゃん、もっとお顔見せて」
男は血塗れの両手で理沙の顔を包み、自分の顔を近づける。血のにゅるりとした感触に、ぞっとする。ぶにゅぶにゅしたのは、なんだろう? 理解したくない。
「お嬢ちゃん、可愛い顔してるね。大人になったら、すっごい美人になるよ」
「お嬢ちゃん、この子のこと、好きだったのかな?」
男は足元に転がる悟の生首を指さした。が、理沙は恐怖で喋れない。
「好きだったのかなぁ!?」
眼の前で叫ばれ、体がびっくり箱のように飛び跳ねる。何か言わなきゃ本当に殺される。けど、口内の上下がぴったり張り付いたまま水分を失ってしまい、喋るどころか、口を開けることすらできない。
理沙は何度も首を縦に振った。
「じゃあ、お別れすることになって、寂しいね。最期に、お別れのちゅー、しよっか」
男は悟の生首を片手で持ち上げ、開いてる手で悟の切り口を触り始めた。
にちゃっ、ぐちゅっ、じゅっ……。
男は切り口から肉片を引きちぎると、理沙の小さな唇に近づける。
「せっかくのファーストキスだから、おめかししないとね」
男は鼻歌を歌いながら、肉片を理沙の唇に這わせる。ぶよぶよして生臭いソレが、悟だと思いたくなかった。
「うん、可愛い子には赤いグロスが似合うね」
肉片が付着し、血塗れになった理沙の唇を見て、男は満足げに頷く。
「それじゃ、お別れのキス、しようか」
男は悟の唇を、理沙の唇に押し当てた。
キスとは本来目を閉じてするもの。そうでなくても、こんなものは見たくない。恐怖でパニック状態に陥った理沙は、目を閉じることすらできない。
大好きな悟が、見たことない酷い表情で、ゼロセンチの距離にいる。理沙も恋に恋する女の子。少女漫画の甘いシーンで、これが自分と悟だったらと、何度も夢見てきた。
ずっとしたかった悟とのキスは、小学3年生の少女には、あまりにも残酷すぎた。
唇が離れると、今度は男の顔は、息がかかるほど近くに迫ってきた。こんな状況だというのに、「あ、このお兄さんアイドルのトモくんに似てるかも」と、幼い理沙はどこか他人事の自分がぼんやり考える。
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