悪夢

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「ねぇ、未来の美人さん。君が大きくなったら、俺のお嫁さんになってくれる?」  片想いの相手を殺した男と、結婚なんて出来るわけがない。殺したのが悟でなくても、殺人鬼と結婚するなんて、まっぴらごめんだ。  心の片隅でそう叫ぶも、うなずかないとひどい目に合うのは、本能が教えてくれた。  理沙はコクコクと何度も何度もうなずいた。 「そっかぁ、お嫁さんになってくれるんだ。ありがとう。君が大きくなったら、迎えに来るよ、可愛い人。約束のキスをしよう」  男は悟の生首を放り投げると、幼い唇と重ね合わせた。  ちゅっ  軽く啄むようなキスに、理沙の体は小さく揺れる。 「俺のキスで感じちゃった? 子供なのに、いけないんだ」  耳元で囁かれ、ぞわりと鳥肌が立つ。感じるの意味も、何故それがいけないことなのかも、幼い理沙には理解できない。そもそも恐怖で体が揺れたのだ。だから、彼が的はずれなことを言ってることだけは分かった。 「もっといけないキス、しよっか」  男は低くかすれた声で囁くと、理沙の唇を舐め始める。ぴちゃぴちゃとわざとらしく音を立てながら。  気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!!!  男を突き飛ばして、逃げたい。だが、指一本動かせば、声を出せば、きっと殺されてしまう。そんな気がした。  にゅるり。男の舌が、口の中に入ってくる。理沙の唇についていた悟の血の味と、男の苦い舌の味が混ざり合い、今にも吐きそうだ。この気持ち悪い行為がはやく終わることを祈ることしか出来ないのが悔しい。  永遠に思われたキスが終わると、男は恍惚の目で理沙を見つめる。 「お名前は……。坂口理沙ちゃんか。いい名前だね。君のこと、予約するよ。初めて付き合うのも、初めてセックスをするのも、全部俺だよ。もちろん、結婚するのもね。約束を破っちゃいけないよ。いいね?」  名札を指先でなぞりながら、おぞましい予約を優しい声でする男の言葉に、ひたすら頷く。従順な理沙にご満悦の男は、満面の笑みを浮かべ、今度は触れるだけのキスをした。 「俺以外の男と、キスもしちゃいけないよ、理沙。君の気持ちを汲んで、ファーストキスはあのガキにあげたんだから。残りは全部俺にくれないと。分かった?」  首振り人形と化した理沙は、頷き続ける。 「あぁ、いい子だ。しばらくの間、寂しくなるけど、我慢してて。離れてる時間が長ければ長いほど、愛は燃え上がるからね。ずっとずっと愛してるよ。またね」  男は触れるだけのキスをすると、その場を去っていった――。
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