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夢から覚めたら
悪夢が終わるのと同時に、理沙は飛び起きる。汗でパジャマが張り付いて気持ち悪いが、どうでもいい。
トイレに駆け込み、昨日の夕飯を吐き出す。
もう24歳になったというのに、15年前の恐怖は未だに拭えない。
あの後、理沙はどうやって帰ったのか覚えていない。男の顔も、覚えていない。気がついたら両親と一緒に警察病院にいた。警察病院にいる間、両親は優しくしてくれたので、まだよかった。否、両親と警察官以外に会うことがなかったのでよかった、とでも言うべきか。
退院すると、悟の両親が理沙に詰め寄ってきた。悟を殺した犯人の特徴や、その時何をしていたのかなど、しつこく聞いてきた。当時の理沙にとって、かなり辛かったが、まだマシだった。
悟の両親は日に日にエスカレートしていき、理沙を罵るようになった。
「何も覚えてないのか、この役立たず」
「お前が死ねばよかったんだ」
「お前が殺したんじゃないか?」
「犯人に股開いて逃れたんだろ、このアバズレ」
自分が悪いと思っていた理沙は、このことは両親に黙っていた。が、異常に気づいた両親は噂の絶えない田舎から、他人に無関心の東京に引っ越した。
しばらく学校に通えなかったが、中学生に上がる頃には、学校に通える程度に回復した。
それから大学まで行かせてもらい、今は一流企業で働き、素敵な恋人と同棲するようになった。
あの殺人鬼はまだ捕まっていないが、理沙を迎えに来ない。
「大丈夫?」
振り返ると、愛しい恋人が水を片手にこちらの様子を伺っている。
「うん……」
恋人から水を受け取ると、飲み干して彼に抱きついた。こうしていると、心が安らぐ。
「またあの夢を見たんだね」
8歳上の彼、大我は、理沙を優しく抱きしめてくれる。大我は理沙の壮絶な過去を知っても、変わらず愛してくれる。
「大丈夫。何があっても、必ず僕が君を守るよ」
その言葉は、嬉しくもあり、悲しくもある。もしあの殺人鬼が来て、大我を見たらどうするだろう? 『恋人を作ったらそいつを殺す』とは言われていないが、あの猟奇的殺人鬼ならやりかねない。
大我を失いそうで怖い。
「私、怖いの……。あなたまで失いそうで……」
「可哀想な理沙。ずっと怯えて生きてきたんだね。もう怯えなくてすむように、とっておきの場所に連れて行ってあげる。だから、退社届けを出しておいで」
「退社って……」
「大丈夫、全部僕に任せて」
詳しいことを聞こうとするも、大我ははぐらかしてばかりで、教えてくれそうにない。大我への信用と、恐怖から逃れたい一心でうなずいた。
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