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昔むかし、とある小さな王国でのこと。
城にいた第一王子の前で、急に雷が落ちたようなまばゆい光がピカッと光りました。十九歳の王子は、自分の部屋でティータイム中でしたが、思わず持っていたベリーのタルトを落としました。
「な、何だ?」
王子が青い目をパチパチしていると、ちょうど光った場所に何やら怪しい影が。それは四十を過ぎたくらいの女でした。
「貴様何者だ?」
「初めまして王子。見て分からないかい?」
黒いローブをまとったその女は、しゃがれ声で言いました。骨ばった細い指には汚れたような黒いつめ。そんな薬指をピンと伸ばして、王子を指差します。
「あたしはあんたの親父に借りがあってね。ちょっと魔法をかけさせてもらうよ」
「魔女か! おい、誰かいないか!」
「フフフッ。今この部屋には誰も入れないよ!」
ローブの魔女が言い放ちます。それを裏づけるように、部屋のドアをドンドンと叩く音がしました。「王子!」と叫びながら誰かがドアをガチャガチャしていましたが、中には入れないようでした。
「あんた、ずいぶん評判が悪いそうだね。ちょうどいいじゃないか。なあ王子?」
魔女の薬指の先に、怪しげな赤い光が灯り、丸くふくらんでいきます。王子はよろけるように二歩下がりました。
「私に何をする気だ?」
「きれいな金髪だから、きっといい感じに仕上がるだろうねぇ。なに、すぐに元に戻れるさ。愛のキスがあればね」
「なっ」
「ごう慢な王よ。あたしと森の友人達の家を奪った恨み、思い知るがいい!」
ピカッと、先ほどよりも強い光が王子の目の前を赤く染めました。その光に目がチカチカするひまもなく、全身が熱くなって、次の瞬間には体から全ての力が抜けていました。ベッドに横になった時みたいな、いや、まるで体がなくなってしまったみたいだと王子は思いました。
今、王子には体の感覚がありませんでした。それどころか、ほとんど何も見えませんし、音もほとんど聞こえません。
元に戻れる、と魔女は言いました。つまり、魔法で何かに変えられてしまったのだと思いました。しかし――。
(愛のキス……)
王子には恋人も婚約者もいませんでした。家族にも期待はできません。
(……これ、チェックメイトじゃないか?)
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