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久々にひどめの風邪をひき、いつもより二時間も遅れてリビングに顔を出したわたしの目に飛び込んできたのは、無残にすべてが割れているように見受けられるパックのたまごたちと、恐らくその要因を作ったであろう夫の青ざめた顔だった。
内側から銅鑼でも叩いているのではないかと思うような激しい頭痛をこらえながら、わたしは、一言ずつ区切って聞く。
「ねえ、そのたまごを割ったの、ゆうくん?」
夫の優紀は神妙に頷く。
「つくっておいてって、たのんだ、卵焼きは?」
「ごめん、まだできてないです、はい」
わたしは、眩暈がしてきた。風邪のせいだけだろうか。
「たぶんーー三十分か四十分も前に、朝ごはん作れないし、食欲ないけど、卵焼きくらいなら食べられそうだから、作ってってお願いしたんだけど」
「ちょっと、レシピを検索してて」
「はあ」
わたしは、頭の中がふつふつと熱を帯びていくのを感じた。本当に本当に風邪のせいだけだろうか。
「レシピ探しに、どれだけ時間をかけているの」
「ごめん、えっと、はじめてつくるから……」
優紀は、おろおろと、しどろもどろに返答した。わたしの目をまったく見ようとしなかった。
わたしの頭の中で、真っ白に火花が散った気がした。
「いままで何を考えて生きてきたわけ!?卵焼きひとつ作れないで!いつもいつもわたしに頼り切って!せっかく買ってきた卵も割って!本当にふざけないでよ!」
わたしは、そこまで言って、ふっと電球が切れるかの如く目の前が暗くなっていくのを感じた。
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