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◇
午後九時十四分
「おかえ――」
「ヒィッ!!」
捜査員用のマンションに戻った本城昇太は、廊下にいる加藤の姿に驚いて背を向けたが、振り向いた拍子に玄関ドアに頭をぶつけ、大きな音を立てていた。
「ああ、ごめんね、ボーッとしてて着――」
そこに葉梨がリビングから出てきた。葉梨が見たものは廊下のダウンライトの真下にいる加藤の後ろ姿だった。
スポットライトを浴びたような形になっている、バスタオル一枚だけを纏う加藤が振り返った。葉梨を見て、『着替えを忘れたから』と言うと、『そうですか』と言い、加藤の肩越しに玄関ドアで頭をぶつけ、手で押さえている本城を見た。
「また相澤さんに怒られますよ!」
「えー?」
また本城に向き直し、答える加藤の背中を葉梨が見ると、加藤の肩甲骨部分に瘢痕が残る切創痕があることに気づいた。バスタオルで隠れていない部分だけでも五センチはある。
「とりあえずパンツ履かせてくれない?」
「ええっ!? 履いてないんですか!?」
加藤の言葉に葉梨は壁に肘をついて、頭を抱えて目を閉じた。唇を噛んでいる。
「だから着替えを忘れたって言ったでしょ」
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