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警察から許可が下りたため、そのまま沈黙と共に、僕らは警察署を離れた。白木はまだ保護されているらしい。帰り道、気まずさと共に夕方の繁華街を歩いていた。街中は賑やかになりつつあるが、それでも俺たちの口はなかなか開かなかった。しばらくして、緑沢さんが口を開いた。
「まさか…彼女が犯人だなんて思ってないでしょうね?」
「そ、それは…」
正直、思っていないといえば嘘になる。よりにもよってこのようなタイミングで塾をサボるなんて、疑われても仕方がない。
「さっきは手荒なことをして申し訳なかったと思っているわ。でも、教え子を信じられない塾講師なんて、私はどうかと思う。それに、自分のことを棚に上げすぎじゃない?」
「え?」
「ずっと前向きに勉強出来る人ばかりじゃない。それこそ優秀な人でも壁にぶつかることはある。私だってそうだったわ。
それと、あなたは確かに頭が良くて優秀よ。でもそれだけで世の中を生きていくことは出来ない。そんなこと、本当はとっくに気づいているんじゃない?」
自分の胸が突き刺されるような感覚に襲われた。
「最近ネットで授業を受けられるサービスとかが充実しているから、塾講師や学校の先生の人員が削減されるのではないかって声をたまに聞くわ。でもただ単に勉強を教えるだけでなく、一人一人の生徒に向かい合って勉強するのを支えるのが塾講師の仕事だと、私は思ってる」
「そう…ですね」
俺に反論の余地はなかった。一人一人に向き合う、自分にはたしてそれが出来ているのだろうか。あるいはこれから出来るようになるのだろうか。そんなことを思いながら、俺は塾へと歩いていた。
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