第一科目 現代社会

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その後俺は授業を終え、帰りの支度をしていた。そのとき大学生アルバイトの男女二人が雑談しているのに気づいた。 男の方は黄門徹。名前を書けば受かるとされる、いわゆる「Fランク大学」の経済学部に在学中の大学一年生だ。しかし高身長でイケメンであるため、俺のような冴えないアラサーよりも女からの人気は高い。大学生活でも遊び呆けているらしいが、こんなやつを高い金を払ってまで、大学に通わせるなと以前から思っている。 女の方は村崎薫。名門私立大学の商学部に在学中の大学二年生だ。一見すると高学歴だが、重大な問題がある。彼女は学力を要する一般入試で入っていないのだ。具体的な入試方式については知らないが、学力でいったらそれこそFランク大学にしか受からないレベルだろう。近年では学力を問わない入試が増えているらしい。実に嘆かわしい。近日中に短期留学に行くらしいが、どうせ遊びに行くのだろうと内心軽蔑している。 二人とも義務教育レベルの内容ですら教えるのに苦労しているらしいが、周囲からは甘やかされている。しかし俺は許していない。容姿端麗だけど頭の中はすっからかん。似た者同士くっつくのだろうかと思いながら他愛ない会話に耳を傾ける。すると唐突に俺の話題になった。 「そういえば、青倉先生って感じ悪くないですか?」 「そうよね。事あるごとに私達の学歴を見下してきますし」 「でもあの人の授業も分かりにくいって、生徒も言っているんですよね。この前なんて、まだ英語の基礎も完成していない中一に対していきなり入試問題レベルの長文を読ませるんですから」 「クレームの理由を生徒の理解力がないからって思い込んでいるのも問題だよね。生徒側のやる気のなさも問題だけど、元をたどればあの人の授業の質に起因するし。あんな授業じゃ誰だってやる気なくしますよ。その点私達は彼ほど賢くない分、基本を教えることに集中出来るんだよね」 なんだとこの低学歴、応用レベルを教えられないだけじゃないか、と思わず割り込みそうになった。しかし、今日は高校の友人と飲みに行く約束をしているんだ。早くいかないと。会話の続きが気になったが、かといって約束を反故にするわけにはいかなかったので、急いで職場を出て、駅前の居酒屋へと向かった。
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