キミの目玉焼き

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 僕は生来の低血圧のせいか、朝起きるのがとても苦手だ。頭が痛いし、体も重い。布団から抜け出すまで一苦労だ。  そんな僕の生態を慮ってか、彼女は毎日の朝食を作るのを引き受けてくれた。そんな優しい彼女と同棲を始めたのはつい一週間前だ。今日は、初めての休日である。 「おはよう。相変わらずだね」 「おはよう……。いつもごめん」  時計を見れば、午前十時を回っている。もうブレックファーストだ。 「ううん。気にしないで。わたしもゆっくり作れるから」  食卓についた僕の前には、健康的なメニューの食事が用意されていた。味噌汁、納豆、サラダに目玉焼き、焼いた鮭の切り身。重すぎず、でもしっかりと栄養を摂れる理想的な朝食。起きたばかりだけど、お腹がこれらを求めてグゥと鳴った。 「あはは、お腹すいたよね。よく寝てたもん。さ、どうぞ」  最後にホカホカの白飯を目の前に置いてくれて、彼女は僕の向かいに座った。 「……それ、どうしたの?」 「あ、これ?」  訊かれるのが分かっていたのだろう。彼女は少し恥ずかしそうに、はにかんだ。 「ものもらいができちゃって。やだな、あんまり見ないで」  そう言って、彼女は左目に着けた眼帯を隠した。昨夜まではそんな兆候もなかったと思う。そんなに急にできるものなのだろうか。 「痛いの?」 「んー、少し。できやすいんだよね。慣れっこだから、心配しないで。それよりも、冷めないうちに召し上がれ」  片目だけでニコリと笑って、食事を促してくる。  ひとまず僕は、彼女の作る美味しいごはんに手を付け始めた。  ただ、彼女の眼帯とキレイに焼けた目玉焼きを見比べて、不意に幼い頃のことを思い出した。  子供というのは、多くの言葉を間違えて覚えるものだ。お魚を「おかさな」と覚えたまま成長してしまったりする。  僕の場合、それは「目玉焼き」だった。僕は十歳くらいまで、「目玉焼き」を本当の目玉で作った料理だと勘違いしていた。その上、母の得意料理ということもあって、食卓にはほぼ毎日並んでいた。目玉焼きを見るたびに、母は何から目玉を取って料理にしているんだろうと戦々恐々したものだ。  眼帯をしている彼女が作った目玉焼き。昔の自分が見たら、さぞ驚いて震え上がったことだろう。
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