キミの目玉焼き

6/6
前へ
/6ページ
次へ
 低血圧である僕は、朝が苦手だ。  そのはずだったけど、その日は自然と目が開いて、頭と体の重さもなくて、スッと起きることができた。  それでも彼女には敵わなかったけど、布団から出てキッチンへ行くと、ちょうど朝食の支度をしていた。 「あれ、早いね」 「うん。なんか、体がラクで」  彼女の手には二つの卵。フライパンは火にかけられて熱せられていて、今から目玉焼きを作るところらしい。 「僕も手伝うよ」  そうして、彼女が一個に、僕が一個。フライパンに卵を割り入れた。  じゅうううと小気味よい音がして、みるみるうちに透明だった白身が真っ白になっていく。こうして見ると、二つの黄身が寄り添っているのは、本当に何かの目に見えなくもない。  でも今は、違うように見えた。  ふたつの目玉焼きが寄り添って、くっついていく。  それは、僕と彼女、二人の姿に重なって見える――気が、しなくもなかったのだった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加