キミの目玉焼き

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 先輩が苦手な理由は、僕と違って社交的で、そのくせ空気が読めないからだ。その二つの特性が合わさると、恋人を連れて食事に来た後輩と、相席もできてしまうらしい。しかも、その女性は自分の元カノだ。信じられないメンタルをしている。 「へえ、同棲してるのか。どおりで、仕事中にもニヤニヤしてるわけだ」 「ニヤニヤっ、なんてしてませんよ」 「無意識なんだから、そら自分じゃ分からんよな」  今は先輩のほうがニヤニヤしている。  彼女は口数少なく、黙々と注文した料理を食べている。僕も早く食べ終えて、とっととこの場から逃げ出したい。のに、先輩が矢継ぎ早に質問をしてくるので、なかなか皿が空かない。会社でのこともあるし、無視する訳にもいかず、苛立ちが募った。  先輩はコーヒーだけで居座っている。彼から帰ってくれる期待はできない。  ただ……男としての悲しい性か、それとも僕が粘着質なだけか。彼女の過去の話を聞いてみたいという気持ちもあった。彼女と昔の話をすることはあまりないので、興味はどうしてもある。 「……それ。まだ生傷絶えないんだな」  彼女の眼帯と、指の包帯を差して、先輩が言った。 「あいかわらずドジだな」  せせら笑う先輩に、彼女は一瞬だけジロリと睨んだ。  この二人の間に流れる険悪な空気は何なのだろう。彼女は出会った頃から明るくて、他人にこんな態度をとっているところは見たことがない。そんな彼女がこんなふうになってしまうのは、単に今カレと元カレに挟まれて気まずいからか、それとも先輩と余程のことがあって別れることになったからか。  どちらにせよ、この空気はいたたまれない。何より彼女がかわいそうだ。先輩なんかに気を使って相席を許可したのが間違いだった。やっぱり帰ろう。  料理を残すのに若干の引け目を感じながら、それでも席を立とうとしたときだ。 「そういえばお前、変なモン食わされてねぇか?」  先輩が僕を見てそう言ってきた。 「え?」  彼が何を言っているのか一瞬理解できず、固まってしまう。  そして、隣席の空気が凍りついたのも分かった。 「いや、だって、同棲だろ? 食事はどっちが作ってるんだ?」 「そりゃ──」  問われたことを反射的に答えかけたとき、彼女が音を立てて立ち上がった。 「私──帰ります」 「え、あ、ちょっ」  振り返りもせず店の出口にツカツカ歩いていってしまう彼女。その迫力に、周りの客や店員も遠巻きに見ている。 「あ、ま、待って!」  先輩に目を向けると、ニヤニヤ笑って顎をしゃくった。行ってやれよ、と。明らかにそっちのせいだろ、と毒づきたいのをぐっと飲み込み、僕は彼女の後を追った。
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