たまごの取締人

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パンケーキを幸せそうな顔で頬張る隣人をみながら僕はたまご取締人の初任務を思い出していた。 「お待たせを致しました」 パンケーキが運ばれてきた。頼んでないけど。 戸惑っていると同僚が物欲しそうにしていたから注文したと笑った。 「本当に美味いな」 同僚がパンケーキを頬張る。 「このカフェのパンケーキさっ、俺の初任務先で作ってるんだって」 へぇと気のない返事。 「俺、仕事辞めようと思ってる」 「へっ!なんでっ!!」 同僚は驚いた様子でフォークを落とした。 これは驚いてくれるんだ。 「初任務からずっと考えてた」 そう、あの初任務の時、管理人の言葉が忘れられない。 『地産地消から食料自給率を上げていく事、小さくトライ&エラーを繰り返す事』 たまごの取締人のままでは食料自給率は上げられない。 「目指す所と今の仕事が嚙み合わっていないって気づいた」 「何言ってるんだよ。国家公務員試験に合格して、省庁試験に合格して、苦労して役人のたまごまで辿りつけたのに?何言ってるの。目指す所って何?仕事と嚙み合ってないって、くさすぎるでしょ」 やっ、もうそうかもしれないけど、違和感半端ないから。 無言の僕に同僚は先輩に相談しろと呆れ顔を向けた。 「いやぁ、そこまでたまご割りましたか」 翌日、先輩に相談すると高らかな笑い声をあげ「いいんじゃない」と背中を押してくれた。 「へっ?」 反対はされないにしても役人のたまごになりたてで、いきなり辞めると言い出した僕に注意はするかと覚悟はしていた。 所が先輩は「心で感じた事は一旦やってみるのもありだと思う」と言ってくれた。 2か月後、僕はたまごの取締人を外され、その3か月後、役人を辞した。
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