たまごの取締人

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都心から車で3時間ほどの里山に目的の施設はあった。 道中の林道で何台かのトラックとすれ違ったから何かが出荷されたのだろう。 先輩は「丁度いいタイミングね」と意気揚々としている。 え~、そんな他人の家に土足で踏み入る前にそんな楽しそうな顔して。 僕は後部座席で隣に座る先輩の顔をまじまじと見た。 「なに?」 視線を感じたのか先輩が不満げな顔を向ける。 「いえ。別に・・・・」 「どうせ、他人の家に押しかけるのに楽しそうな顔しちゃってとか思ってるんでしょう」 「うえっ!」 あまりにも的確に言い当てるものだから思わず変な声が出てしまった。 「何それ」 ふふっと一つ笑って先輩は行く手に目を向けた。 「みんなね、最初はそう思うのよ。何で人が嫌がる様なあら捜しをしにいくんだってね。まぁ、本当にあら捜しなんだけれど。それでも法令を遵守して事業を営んでいる事業者がほとんど。正誤がでるのは知らないか、やり方が解らないかなの。故意に違法と解って法令違反をする事業者は少ない。だからこそ、私達みたいなあら捜し人が必要なのよ。あら捜しした時は恨まれるわよ。死ぬかもと思ったことも何度もある。でも、法令遵守をする強い意志のある事業者は後から必ず感謝する。ああ、これって結局、自分たちのお客様の健康と安全、安心を守る事に繋がるんだって気付くの。私たちはそのキッカケを探し《・・》出す役割を担っている」 取締人として10年のキャリアを持つ彼女の言葉は実体験から来ている。 「まあさっ、役人のたまごの内は大いに割れてみるのがいいと思う。割れ方も様々に経験して、心ある役人になって欲しい。目に見えないモノ含めて全て生き物だから」 誇らしげな先輩の顔が眩しく見えた。
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