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学生Aは更に耳を澄ます。
すると、その音は急に自分の方へと向かって来ているように感じる。
「んっ?な、なんだぁ!」
慌てて仰け反り、後ろ手をつく学生A。
それに若干遅れて目の前にモワ~っと現れる緑の影。
その影は、穴の大きさとは不釣り合いの人間大にまでなると、学生から少し距離を取ったところに明確な姿を現した。
その姿、女性である。紛れもなく緑色のドレスを着た女性である。多分、自分より少し年上の。
しかも端正な顔立ちに、見ほれる程のスタイル。
だが、学生Aはその姿にもちょっと違和感を感じる。
女性は緑色のドレスの上に、大木との繋がりを思わせる蔓と木の葉を纏っているのである。
学生Aは後ろ手をついたまま、驚き半分見ほれるの半分で、無防備にも口を開け放ったままとなる。
そんな彼に、緑の女性が口を開いた。
「この玉子は、あなたのですか?」
流暢な日本語、しかも美声だ。
この学生Aの実家は神社である。行く行くは神主となる身。一般学生と比べると若干信心深い。
そのせいなのか、こんな状況であってもそれなりの受け応えが出来る程に、瞬時に心を持ち直すことに成功する。
相手が奇麗な女性であることが後押ししたことは、否定出来ない事実ではあるが。それでも、口を開き固まったまま青ざめている実家暮らしの相方Bとは大違いである。
「え~、そ、それは…」
確かに持参のゆでたまごは、緑の女性が出現した大木の穴には入って行ったのだが、彼女の持つたまごが違うことは明確であった。
なにせ、そのたまごは木陰にありながらも金色に光り輝いているのだ。
学生Aのたまごもちょっとだけ高級ではあったが、金色に光ることはない。
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