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「それでもありません。私の落としたたまごは薄い褐色、肌色に近い色のたまごでございます」
迷いなくそう応える。
学生Aは、次は自分の落としたゆでたまごが出て来るはず。と考えている。
それが彼の記憶するお伽噺のテンプレだからだ。
「大変正直で素晴らしい心がげです。その正直さを称賛して、あなたにはこの金と銀のたまごを差し上げましょう」
緑の女性は、胸を張って自信満々にそう告げる。
しかし、彼女の言葉は一見有難そうなだが、学生Aの希望からは完全にずれている。
彼が期待するのは、お伽噺のテンプレにある「自分の持って来たたまごの下り」なのである。
彼としては、このやり取りを終えて、とっととゆでたまごを食して、飲み物を買いに行きたいのである。
「あの~せっかくなのですが、私には金のたまごも銀のたまごも使い道がございません。自分が落とした肌色のたまごだけで十分です。なので、そちらを頂ければと思うのですが…」
学生Aは、湧き始めた不信感を必死に潜ませ、緑の女性の様子を窺う。
緑の女性はその返答が予想外だったのか、困り顔で少し考えだしている。学生Aの落としたたまごも、なかなか出そうとはしない。
それに、さっきから口をもぐもぐと動かしながら喋っている。両足も、もぞもぞと動かしているのだ。
学生Aは、それがとっても気にっていた。
もしかして「食・べ・た・のだろうか?」そう思ってしまう。すると、
「ではでは、そう、特別に金のたまごをもう一個付けましょう。金のたまごが二つ。これでどうでしょう?ねっ、すご~くいいでしょう」
まさに落としどころを模索して導き出したとしか思えない言葉が返って来る。
だが、学生Aにとっては言い訳の上塗りである。不必要なものをいくつ貰っても意味はない。
「あの~、お聞きしたいのですが」
「何でしょう」
「その金のたまごはどのように使うのが有効的なのでしょうか」
そう尋ねてみる。
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