転がる、転がる

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ころんころんころん、と目の前を何かが転がっていった。 あれはなんだろう。 思わず視線で追いかける。 今、オレ行かなきゃいけない所があるんだけど。 ――どこに向かうんだっけ? 自分の考えようとしている事がよくわからない。 目の前を転がっていく何かから目が離せない。 気が付けば足を上げて、列を成して転がっていくそれに追いつくために駆けていく。 小さくてよく見えなかったそれも、近づけば何か理解できるようになる。 たまごだ。 どんどん加速していくスピードに追いつくために、足を早く動かす。 追いつかなくては見逃してしまう、どこかへ行ってしまう。 ――早く追いついてオレも、卵にならないと…… 何よりも優先すべきことを考えながら 息を切らして駆け続けて、あと少しで列の一番後ろにつける。 その時だった。 「八尋」 「……え?」 振り返ると、オレの手首をグッと掴んで真咲がオレを睨んでいた。 「……な、んだよ? 怖い顔して」 「どこ行くんだ?」 「へ? ……え、っと……コンビ、ニ?」 「そっち、森に続く道だけど」 「ほん、とだ……オレ、なんで……?」 改めて見ると急に人通りが少なくなるその道は、昼なのにどこよりも薄暗く見えた。 頭が混乱している間も、真咲はオレの手を離さなかった。 「今日、俺の家集合だろ。コンビニ寄るなら一緒に行く。ちょっと買うだけだよな?」 「あ、ああ……そうだな。なんか菓子持ってこうと思ったし今の真咲の好きな菓子でも教えてくれよ」 「俺そんなに新しい菓子とかわからないけど」 「何だよつれねーな」 他愛ない会話をしながら遠のいて、離れる程思考がクリアになっていく。 さっき何を見たのか。 一体何を考えていたのか。 オレは思い出せなくなっていた。 でも、何故だか腕を払う気になれなくて、コンビニにつくまで真咲に握って貰ったままでいた。 自動ドアの前で手を離すと、真咲はオレの方を見た。 「八尋」 「な、なんだ?」 「今日俺の家に泊ってけよ」 「あ、ああ……わかった」 何故だかわからないけれど、俺はその日、言われるがままに真咲の家に泊まった。 夜に何かが転がる音を聞いたような気がして起きた。 丁度起きてきたらしい真咲が、暖かい牛乳を入れてくれたので、飲み終えた後ゆっくりと眠りについた。 その後は何の音もしなかった。
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